お盆の夜、街では毎年恒例の提灯祭りが開かれていた。
色とりどりの提灯が並び、明かりが夜空を優しく照らしている。
その光景はどこか幻想的で、古き良き日本の夏を思い起こさせるような美しさがあった。
俺は家族と一緒に、街中に並んだ提灯を眺めながら祭りを楽しんでいた。
人々の笑い声や賑やかな音楽が響く中、提灯の淡い光が揺れながら夜の風に踊っている。
まるで、光そのものが生きているかのように見えた。
しかし、その時、ふと違和感を感じた。
祭りの喧騒の中、一つだけ提灯の明かりが消えたのだ。
人々は気づかず通り過ぎていくが、俺はその消えた提灯に目が釘付けになった。
「どうしたんだろう…」
気になって、消えた提灯に近づいてみた。
辺りは暗く、その場所だけがぽっかりと闇に包まれていた。
提灯の位置にたどり着くと、そこには誰かが立っているのが見えた。
細い体つきに長い黒髪。風に吹かれてその髪がゆっくりと揺れていた。
しかし、その顔は暗闇に隠れていて、はっきりと見えなかった。
「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけようとしたが、声が出ない。
胸の奥から不安が湧き上がり、足元が震えた。
なぜか、その場から動けなくなってしまったのだ。
そして、ほんの一瞬、目を離した。
次の瞬間、その黒髪の人影は消えていた。
まるで何もなかったかのように、その場所には誰もいなかった。
そして、不思議なことに、消えていた提灯が再び灯り、優しい光を放っていた。
だが、体は冷たい汗でびっしょりと濡れていた。
胸の鼓動が早まるのを感じ、何か得体の知れない恐怖が体を支配した。
「あれは…誰だったんだ?」
祭りの楽しげな雰囲気が戻り、まるで何事もなかったかのように提灯の光が揺れていたが、俺の中には拭いきれない恐怖が残った。
あの人影が現れた瞬間、そして消えた瞬間が、現実の出来事なのか、それとも幻だったのかすら分からなかった。
その後、家族に戻ったが、誰も異変には気づいていなかった。
自分だけが見たあの影は一体何だったのか。
今でも、その答えはわからないままだが、あの提灯の光に潜む何かが、確かに俺を見つめていたのだと感じている。
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