夜も深まった頃、涼太は何かに取り憑かれたように、パソコンの画面に目を釘付けにしていた。
画面に映し出されているのは、数年前に別れた恋人、彩花のSNSアカウント。
彼女は幸せそうに新しい恋人と写る写真を次々と投稿していた。
涼太は、その姿を見て胸が締めつけられるような思いを感じた。
「もし、あの時に戻れたら…」と、彼は何度も考えていた。
あの日、涼太は些細なことで彩花と喧嘩をし、感情的になって別れてしまったのだ。
彼は後悔の念を抱き続け、何度も謝りたいと思いながらも、時間が過ぎるにつれ、彼女と連絡を取ることすらできなくなっていた。
ある晩、涼太はネットサーフィンをしていると、奇妙なウェブサイトにたどり着いた。
そこには「過去を変えることができる方法」と書かれていた。
冗談半分でページを読み進めると、具体的な手順が記されていた。
それは、古い写真を使って過去にアクセスし、運命を変えるというものだった。
涼太はその奇妙な方法に興味を持ち、自分のパソコンに保存されていた、彩花との最後の写真を選び、その指示通りに操作を進めていった。
「過去を変えたい」と、涼太は強く願いながらクリックを続けた。
その瞬間、部屋の中が急に寒くなり、彼の周りの空間が歪んだ。
目の前には、あの日、別れを告げた時のシーンが広がっていた。
まるでタイムスリップしたかのようだった。
涼太は迷わず、喧嘩をやり直し、冷静に謝罪をした。
彼の言葉に彩花は涙を流し、再び彼の腕の中に飛び込んできた。
満足げに現実へと戻ってきた涼太。
しかし、戻ってきた世界は何かが違っていた。
彼の部屋には異様な気配が漂い、彩花との思い出が形を変えていた。
彼の写真には、知らない男性の顔が薄らと浮かび上がり、彼の中に存在していなかったはずの記憶がフラッシュバックする。
まるで他人の人生を生きているような感覚に襲われた。
涼太は慌ててそのウェブサイトを確認しようとしたが、もうアクセスすることはできなかった。
代わりに涼太の携帯に通知が届いた。
画面には「彩花」からのメッセージが表示されていた。
しかし、開いてみると、そこに書かれていた内容は、彼が知っている彩花ではまったくなかった。
名前も文体も、どこか不気味で知らない人からのメッセージのようだった。
困惑する涼太の頭の中に、ふと「過去と他人は変えられない」という言葉が響いた。
彼が過去を変えたことで、本来あるべき現実が歪んでしまったのだ。
自分の記憶も次第にぼやけ始め、彩花との思い出すら曖昧になっていく。
誰が本当の彼女なのか、何が現実なのか、涼太にはもう判断できなくなっていた。
その日から、涼太は自分が誰なのかさえも分からなくなっていった。
街を歩く自分の姿を鏡やショーウィンドウで見るたびに、映っているのは見知らぬ顔。
まるで他人の人生を生きているかのように、徐々に自分の存在が薄れていくのを感じた。
最後に彼が見たのは、鏡の中で自分をじっと見つめる、全く知らない男の顔だった。
その目はどこか冷たく、見つめ返す涼太に微笑んでいるように見えた。
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