浦戸湾の入り江に朱色の桟橋を突き出す深浦神社。一見すると静かな海辺の神社であるが、その神木では戦後から二十人以上が首を吊ったとされ、吊られた枝が枯れるという奇怪な現象が語り継がれている。今回は、深浦神社にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
深浦神社とは？
浦戸湾の西岸、静かな入り江に面して建つのが深浦神社である。
朱塗りの桟橋が海に突き出し、潮風をまといながら参道を進むと、背後には苔むした山、前方には海が広がる。
まるでこの世とあの世の境界に立つような雰囲気を漂わせる神社である。
かつてこの地は「福浦神社」と呼ばれていた。
社伝によると、かの地の長者の娘が山伏に追われ、海へと身を投げた悲恋の伝説が残る。
娘の父は豪商であり、伊勢神宮で不敬を口にしたことから神罰を受け、一家は没落。
娘と山伏、そして乳母を祀るためにこの神社が建立されたという。
海に向かって中途で途切れた参道や、荒れた磯の先に立つ社殿の姿は、まるで彼らが海へ消えた瞬間をそのまま封じ込めたかのようである。
深浦神社の心霊現象
深浦神社の心霊現象は、
- 神木の枝で首を吊った者が相次ぎ、枝が枯れるという怪異
- 枯れた枝の代わりに新たな枝が伸び、再び自殺が起こる
- 夜、女性が「縁切りさん」に刃物を供えに来る
- 境内付近で自殺者のロープが発見される
- 参拝後に機械の誤作動や不可解な写真が撮れる
である。以下、これらの怪異について記述する。
深浦神社の神木では、戦後だけでも二十人以上が首を吊ったとされる。
奇妙なのは、その度に首を吊った枝が必ず枯れ落ちることである。
だが不思議なことに、枯死した枝の跡からは必ず新しい芽が伸び出し、やがて太く成長する。
その枝が次の「首吊り枝」になるのだという。この循環は、まるで神木が人を呼び込んでいるかのように続いている。
神社の東には三本の石柱が並ぶ「縁切りさん」がある。
夜になると、誰もいないはずの林道を通り、女性が包丁やナイフを供えに来る姿が目撃されている。
左側の二基は縁切り、右側の一基は縁結びの祈願所とされているが、祈る者の願いが成就したかどうかを知る者はいない。
また、神社近くの浜辺では、実際に首吊り自殺に使われたとされる二本のロープが発見されている。
一本は枝の下部に掛けられ、もう一本は幹の上に結ばれていた。
低い枝では吊れず、幹の上へ登って再びロープを掛けた跡が残っていた。
そのロープは、朝には千切れて砂浜に落ちていたという。近くの精神病院の窓から、自殺者の姿が見つけられたと語られている。
この神木を祓おうと試みた者もいたが、「神木は伐れぬ」として中断されたという話もある。
枝の枯死が神意によるものなのか、それとも人の念によるものなのかは不明である。
深浦神社の心霊体験談
過去、ある芸人兼怪談師が深浦神社を訪れた際、帰宅後に眼鏡のツルが突然はじけ飛ぶという不可解な現象に遭っている。
同行した仲間もそれぞれ別の怪異を体験したという。
また、神社を撮影した際、何枚かの写真のうち一枚だけ異様な光が写り込んでいた。
人物の足元に纏わりつくような光の筋、そして棒状に伸びる白光。ピントのずれた写真のはずが、そこだけは不自然な存在感を放っていたという。
その日、同行者は「木塚明神」にも参拝していた。そこは土佐に伝わる怨霊「七人みさき」の首領・吉良親実を祀る場所であり、後日、撮影者の身に立て続けに不運が降りかかった。
深浦神社と木塚明神は、土佐における“祟りの連鎖”を象徴する地とも言われている。
深浦神社の心霊考察
深浦神社の怪異は、単なる偶然の積み重ねでは説明がつかない。
神木の枝が「吊られた枝だけ枯れる」という現象は、自然の摂理に反しており、まるで何かが選別しているように見える。
人の命を吸い取るたび、枝が枯れ落ち、また新たな命を求めるかのように芽吹く。
それは“再生”ではなく“循環する死”の象徴である。
また、「縁切りさん」に刃物を供える風習も、人と人の縁を断つ儀式として異様に生々しい。
愛憎や恨みの念が長くこの地に留まり、それが深浦神社周辺の重苦しい空気を形作っているのだろう。
参道は海に途切れ、背後には山。逃げ場のない地形の中で、人は己の罪や絶望と向き合う。
深浦神社は、神と人、そして死者の境界が曖昧に溶け合う場所であり、そこに足を踏み入れる者は、いまもなお“誰かの念”に見つめられているのかもしれない。
コメント