『ゼルダの伝説』と聞くと、多くの人は「冒険」「勇者」「希望」といった言葉を思い浮かべるだろう。
しかし、シリーズ全体を通して物語を読み解くと、そこには明確なホラー構造が存在している。
それは幽霊や血の表現ではない。
世界そのものが抱え込んだ呪いである。
本記事では、『ゼルダの伝説』をホラー作品として再解釈し、その本質に迫っていく。
世界は最初から呪われている
シリーズの起点である
ゼルダの伝説 スカイウォードソード
で明かされる真実は、決して希望に満ちたものではない。
魔王は討たれたのではない。
憎しみだけが世界に固定されたのである。
終焉の者は、滅びの瞬間にこう言い残す。
その憎悪は時を超え、形を変え、
永遠にこの世界を巡り続ける
これは敗北宣言ではなく、呪詛の刻印である。
この瞬間、ハイラルの歴史は「救済」ではなく
繰り返される災厄の物語として始まった。
リンクは英雄ではなく「消耗品」
シリーズを通して登場する勇者リンクは、同一人物ではない。
記憶も人格も引き継がれない。
残るのは「役割」だけである。
これはホラー的に見れば、
世界維持のために何度も用意される代替人格に等しい。
特に顕著なのが
ゼルダの伝説 ムジュラの仮面である。
- 何度世界を救っても、誰にも覚えられない
- 苦痛や恐怖は共有されない
- 最後に残るのは「仮面」という痕跡だけ
これは冒険譚ではない。
存在が消費され、記録されず、忘却される物語である。
ガノンは倒すべき怪物ではない
ガノンは毎回姿を変え、時代を変え、必ず現れる。
これは偶然ではない。
ガノンとは、
この世界に必要とされてしまった存在である。
ゼルダの伝説 トワイライトプリンセスでは、彼はすでに裁かれ、処刑された存在として描かれる。
それでも消えなかった。
これは「悪が強い」のではない。
世界が彼を手放せないのである。
ハイラルは滅びの上に築かれた王国
ハイラルの大地には、常に廃墟が存在する。
海に沈められた旧王国(ゼルダの伝説 風のタクト)
正体不明の遺跡と古代兵器(ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド)
文明は必ず滅び、
- その上に新たな文明が築かれる
- だが、失敗の理由は共有されない
- 同じ過ちが、別の時代で繰り返される
これは成長の歴史ではない。
上書き保存され続ける破滅の記録である。
ブレワイ以降は文明崩壊ホラーである
ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム
に至って、この世界の恐怖は明確になる。
- 守るために作られた兵器が人を殺す
- 知恵が進歩ではなく破滅を招く
- 文明は必ず自滅する
もはや剣と魔法の物語ではない。
人類そのものが抱える文明ホラーである。
結論:ゼルダの伝説は「希望を装った呪いの物語」
ゼルダの伝説とは、「子ども向けの冒険譚」という仮面で覆った作品である。
- 救われない世界
- 使い捨てられる勇者
- 必然として蘇る災厄
- 忘却される犠牲
これらを
希望があるように見えるのは、
物語が終わるたびに
観測者であるプレイヤーが世界から離脱するからに過ぎない。
もしこの世界に
「リンクが去った後の時間」を描いたならば、
それは疑いようもなくホラー作品になるだろう。





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