大阪府枚方市牧野地区。
桜の名所として知られる牧野公園の一角に、通称「エゾ塚」と呼ばれる小さな塚がある。
ここは、蝦夷(えみし)の族長・阿弖流為と副長の母禮を祀ったものだと語られてきた場所である。
本記事では幽霊の存在を断定しない。
扱うのは、この塚がなぜ阿弖流為・母禮の名と結びつき、なぜ心霊の噂が生まれたのかという、場所と語りの重なりである。
牧野公園のエゾ塚とは?

牧野公園内のエゾ塚は、もともと存在していたとされる「蝦夷塚」に加え、2007年3月、塚のふもとに「伝 阿弖流為 母禮之塚」が建立されたことで、現在の形になった。
ただし、この地に阿弖流為と母禮が実際に埋葬されたという学術的根拠はない。
史料上、二人が処刑された場所は河内国とされるものの、具体的な地名は写本によって異なり、確定していないのが実情である。
それにもかかわらず、この場所が「エゾ塚」として受け取られてきた背景には、いくつかの語りが積み重なっている。
女性の霊夢説|塚が“呼び戻された”という物語
よく知られているのが、1979年頃に語られた「女性の霊夢説」である。
牧野地区に住む一人の女性が、
長い白髪と白い顎ひげの人物が現れ、何かを訴えかけてくる夢を見たという。
目覚めた女性は、その夢が気になり、この土地の来歴を調べるため、枚方市の市史編纂室に問い合わせた。
そこで、対応した担当者が冗談交じりに
「昔、この近くで蝦夷の族長が処刑されたらしい」
と話したとされる。
女性は、夢に現れた人物こそ阿弖流為ではないかと感じ、塚を整え、祀った――
というのが、語られてきた物語である。
河北新報の報道と「もともとあった塚」
一方で、1979年の河北新報の記事によれば、
牧野公園として整備される以前、この場所は片埜神社境内の一部であり、
- 「ヘビ塚」「鬼塚」などと呼ばれる塚が存在した
- 触ると祟りがある、という言い伝えが残っていた
とされる。
また、明治期以降、
「阿弖流為が処刑された場所は河内国の宇山(うやま)ではないか」
という説が広まり、
「もしかすると、この塚がその地なのではないか」という想像が、地域の中で育っていった。
女性一人の信仰というより、
もともと“触れてはならない場所”として扱われていた塚に、阿弖流為の物語が重ねられた
と見る方が、実態に近いとされている。
阿弖流為(アテルイ)とは何者か
阿弖流為は、8世紀末から9世紀初頭にかけ、陸奥国胆沢(現在の岩手県奥州市周辺)を拠点とした蝦夷の族長である。
延暦21年(802年)、
征夷のために派遣されていた坂上田村麻呂のもとを訪れ、母禮とともに降伏した。
坂上田村麻呂は助命を嘆願したとされるが、公卿たちの反対により、二人は河内国で処刑されたという。
ただし史料では処刑地が「杜山」「植山」「椙山」などと揺れており、場所は特定されていない。
この“場所の不確定さ”こそが、後世の想像を呼び込む余地を残した。
牧野公園とエゾ塚で語られる心霊の噂
エゾ塚にまつわる心霊の噂は、派手な怪異よりも、畏れの感覚として語られる。
- 敬意なく立ち入ると祟りがある
- 塚の周辺で妙な気配を感じる
- 夜間、近づくと落ち着かない
これらは、明確な目撃談というより、
「ここは軽んじてはいけない場所だ」という空気感の共有に近い。
霊的な観点で見るなら、
慰霊碑そのものが“依り代”となり、神社と似た役割を果たしている
と捉えられているとも言える。
口コミと現在の牧野公園
口コミを見ていくと、現在の牧野公園は、
- 桜の名所として親しまれている
- 遊具や芝生の広場がある穏やかな公園
- 片埜神社と隣接し、静かな空気が流れる
といった評価が多い。
一方で、
- 「桜の季節以外は人が少ない」
- 「夜は少し不思議な雰囲気になる」
といった声もあり、
日常の公園でありながら、どこか“物語を抱えた空間”として受け止められていることが分かる。
なぜ牧野公園にエゾ塚があるのか|場所から考える心霊考察
牧野公園のエゾ塚が心霊の文脈で語られる理由は、次の要素が重なっている。
- 史実として処刑地が特定されていない
- もともと祟りの伝承を持つ塚が存在していた
- 阿弖流為という“敗れた側の英雄”の物語
- 神社と公園の境界に位置する場所性
ここでは、
「幽霊が出るから怖い」のではない。
名もなき塚に、敗者の記憶と畏れが重ねられ、意味が付与され続けてきた
その過程自体が、心霊的な噂を生み出している。
まとめ
牧野公園のエゾ塚は、阿弖流為・母禮の埋葬地と断定できる史料は存在しない。
しかし、祟りの伝承を持つ塚に、蝦夷の族長という物語が結びついたことで、この場所は慰霊の場として生き続けている。
幽霊の存在は断定できない。
だが、敬意をもって語られ、畏れを伴って扱われてきた場所には、人の記憶が沈殿する。
牧野公園のエゾ塚は、
史実と想像、信仰と畏れの境界に立つ“噂の残る場所”として、今も静かにそこにある。






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