沖縄の古い村では、夜になるとシーサーがひとりでに動き出すという恐ろしい伝説があった。
シーサーは家や土地を守るために置かれる守護獣であり、一般的には家の前に一対のシーサーを置くのが普通とされていた。
しかし、その動きが不幸をもたらすという話は村人たちの恐怖の対象となっていた。
金城家もまた、伝説に従い、家の前に二体のシーサーを置いていた。
古びた石でできたシーサーは家を守る存在として大切にされていたが、金城家の家族はその伝説に特に気を配ることはなかった。
ある晩、月明かりに照らされた夜の静けさの中で、異変が起こった。
金城家の長女、ゆう子が深夜に目を覚まし、窓から外を覗いた。
すると、家の前に置かれたシーサーのうち、一体が動き出しているのを目撃したのだ。
二体のシーサーのうち、右側に置かれていたシーサーが、まるで生き物のように動き回り、庭を歩き続けていた。
一方、左側に置かれていたシーサーは、その場に静かに佇んでおり、まったく動かなかった。
恐怖に駆られたゆう子は、すぐに家族を起こした。家族全員がその異様な光景を確認したが、どうすることもできず、ただ震えながらその夜を過ごした。
動き回るシーサーは夜ごとに庭を徘徊し、冷たい風を吹き込みながら不気味な足音を立てた。
その後、金城家には次々と不幸が降りかかるようになった。
まず、家の井戸が突然干上がり、水の供給が途絶えてしまった。
続いて、家族の健康にも異変が現れ、ゆう子は原因不明の高熱に苦しみ、息子の誠一も夜な夜なうなされるようになった。
父親の修司の仕事も次々と失敗し、家計は急激に悪化していった。
家の中には常に重苦しい空気が漂い、家族は精神的にも追い詰められていった。
さらに、家の中で物音がするようになり、家具がひとりでに動くこともあった。
冷たい風が家の中を吹き抜け、家族はますます恐怖に駆られた。
何かが家族を狙っているように感じ、シーサーの動きが引き起こす不運だと信じていた。
ついに、金城家はその家と庭を手放す決断を下さなければならなかった。
家を売り払った後も、金城家の人々は新しい生活を始めることができたが、心には深い傷を負っていた。
家と庭は放置され、動き続けるシーサーはそのまま残されていた。
村人たちはその場所を忌まわしいものとして避け、誰も近づこうとはしなかった。
しかし、時折夜の闇の中で、動き続けるシーサーの石の音が響くことがある。
冷たい風が吹き抜けるとき、それはただの風の音なのか、それとも、あの夜中に動き回っていたシーサーが未だに庭を徘徊しているのか…。
静寂の中で響くシーサーの不気味な音は、村人たちに恐怖をもたらし続けている。
深夜の闇の中、動き続ける石獅子の足音が、今もなお恐怖を呼び起こしているのであった。
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