那覇市の静かな住宅街の一部では、夜になると決して一人で歩かないほうがいいとウワサされている。
昼間は子どもたちの笑い声や、家々から漂う夕食の香りで満ちている通りも、日が沈むとまるで異世界に変わる。
特に、深夜に訪れる静寂は異様で、風も止まり、家の中から漏れる光さえもぼんやりと滲んで見えるほどだ。
一人の若い男性、翔太は、そのウワサを一笑に付していた。
友人たちとの飲み会を終えた後、深夜の住宅街を一人で歩いて帰ることにした。
アルコールのせいで多少気分が良くなり、月明かりが照らす道を軽やかな足取りで進んでいた。
しかし、歩き出して間もなく、翔太は奇妙な感覚に襲われた。
背後から、何かが彼を追っているような気配がしたのだ。
軽い靴音のようなものが、彼の歩調に合わせて響いていた。
初めは、自分の足音が反響しているだけだろうと考えたが、徐々にその音が近づいてくるのがわかった。
「誰かいるのか?」翔太は立ち止まり、振り返ってみた。
しかし、背後には誰もいない。
ただ冷たい夜風が彼の頬を撫でるだけだった。
少し笑って自分の過敏さを責め、再び歩き始めたが、足音は再び彼の後ろで鳴り始めた。
しかも今度は、明らかに近づいてくる音だった。
心臓がドキドキと高鳴り、翔太は足早に歩き出した。
だが、足音も同じ速度で追ってくる。
逃げたい一心で走り出そうとしたが、足がすくんで思うように動かない。
まるでその音が彼を捕らえ、逃がさないようにしているかのようだった。
絶望的な気持ちに陥りながら、翔太は再び振り返った。
そこには、何もない闇しか見えなかったが、足音は明らかに彼のすぐ後ろで止まっていた。
その瞬間、背後から冷たい息が翔太の首筋を撫でたような感覚が走った。
その夜、翔太は家にたどり着くことはなかった。
翌朝、彼の家族は彼が行方不明になったことに気づいた。
警察が捜索を行ったが、翔太の姿はどこにも見当たらなかった。
ただ、彼が最後に歩いていたとされる道には、彼のものと思われる靴が一足、静かに並んで置かれていたという。
それ以来、あの住宅街では夜道を歩く人が激減した。
今でも、誰かが夜遅くに一人で歩いていると、背後から聞こえる足音が近づいてくるという。
振り返っても何も見えないが、その足音を聞いた者は、決して無事では済まないと噂されているのだ。
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