古びた町外れの一角に、誰も住まなくなった家がひっそりと佇んでいた。
家の外観は時の流れにそぐわず、放置されたままの状態で、近隣の人々にとっては近寄りがたい存在だった。
その家には、かつて住んでいた家族が一人ずつ姿を消したというウワサがあった。
しかし、誰もその理由を知る者はいなかった。
ある晩、ひとりの若者がその家のことを耳にし、興味本位で訪れることに決めた。
彼は心霊スポットを探していたが、その家の話を聞いてどうしても確かめたくなったのだ。
家に着くと、彼は鍵がかかっていないことに気づき、戸を開けて中に入った。
暗い廊下を進み、古びた畳が敷かれた部屋に入ると、埃っぽい空気と不気味な静けさが彼を迎えた。
彼は懐中電灯で部屋を照らしながら、畳の上に点々と白い跡があることに気づいた。
それらは足跡のように見えたが、彼はそれがただの埃の跡に過ぎないと思っていた。
その夜、彼は部屋の隅に寝袋を広げ、眠りに落ちた。
深夜、目が覚めた彼は、畳の上に新たな足跡が刻まれているのを見つけた。
驚いた彼は懐中電灯を持ち、足跡を追いかけたが、それらはいつの間にか部屋全体に広がり始めていた。
見えない足跡が次々と畳に刻まれ、彼の周りを囲むように増えていく。
混乱と恐怖に駆られた彼は、急いで部屋を出ようとしたが、戸が自然に閉まっていることに気づいた。
彼は力任せに戸を押し開けようとしたが、それはびくともしなかった。
周囲には息を呑むような静寂が漂い、彼の心臓は激しく打ち続けた。
その後、彼の姿は完全に消えてしまった。
翌朝、町の人々がその家を訪れると、部屋の中には彼の持ち物だけが残されていた。
畳の上には、昨夜見たものと同じように、新たな足跡が刻まれていた。
それはまるで彼自身の足跡が家の中に広がっていく様子を示しているかのようだった。
近隣の人々はその家を避けるようになり、そこに近づく者は誰もいなくなった。
しかし、時折、その家の周りに立ち止まると、見えない足跡が新たに刻まれているのを感じるという話だ。
夜になると、家の周りには足跡が増え続け、誰かが再びその家に足を踏み入れる日を待っているかのように感じられるのである。
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