種子島の西端に位置する美しい岬「板敷鼻」。壮大な夕景や澄んだ海が広がるその場所には、かつて多くの死者が海へと葬られたという血塗られた歴史がある。鎧武者の霊、海へ消える母子、得体の知れぬ声や怪異……。今回は、板敷鼻にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
板敷鼻とは?

板敷鼻とは、種子島の西部に位置する岩場の岬である。
10畳ほどの平らな敷石のような地形が広がり、その周囲には垂直に切り立つ巨大な岩が連なっている。
海は透き通るほど澄んでおり、珊瑚礁も見られることから、観光地や釣りスポットとしても人気が高い。
夕暮れ時には、東シナ海に沈む夕日が壮大な景色を演出し、天候が良ければ大隅半島、開聞岳、屋久島、硫黄島、竹島なども見渡せる。
オレンジ色の珍しい海草も岩場に生息しており、自然美にあふれた場所である。
だが、この美しい岬には、血塗られた歴史がある。
種子島は日本で初めて鉄砲が伝来した地であり、江戸時代以前には種子島氏や島津氏などが激しい覇権争いを繰り広げた。
その時代、この地では敗れた者たちの遺体を海に捨てるという風習があったという。
この板敷鼻にも、多くの無念を抱えたまま海へ沈められた遺体があったとされる。
板敷鼻の心霊現象
板敷鼻の心霊現象は、
- 鎧を着た男性の霊が岩場に佇む
- 子を抱いた女性が海へ身を投げる姿が見える
- 見えない何者かに足を掴まれる感覚
- 夕暮れに、背後から「助けて」という声が聞こえる
である。以下、これらの怪異について記述する。
まず、最も有名なのは「鎧を着た男性の霊」の目撃談である。夕日が沈む時間帯に、岩の上に無言で立ち尽くす武者の姿が現れるという。
その霊は動かず、ただ西の海をじっと見つめている。近づこうとすると、ふっと消えてしまうという話が多く語られている。
次に、「子を抱いた女性の霊」がある。
これは夜になると海の方から聞こえる赤子の泣き声とともに始まる。
泣き声に誘われて海を覗くと、波間に子どもを抱いて立つ女性の姿が浮かび上がるという。
そしてそのまま、ずぶずぶと海に沈んでいく——。
三つ目の現象は「見えない何者かに足を掴まれる」という体験談である。
釣りに訪れた者や観光客が、海に近づいた際、突然足首を掴まれ転倒するという報告が後を絶たない。
だが周囲を見渡しても誰もおらず、足元には人の手形のようなぬれた跡だけが残っていることもあるという。
最後に、「助けて」という声の怪異。とくに夕暮れ時、風もないのに背後から女性の声で「たすけて」と囁かれる体験をする者が多い。
声の出どころは不明で、誰もいないはずの岩場から聞こえてくる。
板敷鼻の心霊体験談
ある地元の男性が体験した出来事である。
彼は日没後に釣りをしていた。魚の手応えを感じてリールを巻いていると、急に背後から「子どもが……子どもが……」という女性の声が聞こえた。
不審に思って振り返ると、誰もいない。
だが海面を見ると、子どもを胸に抱えた女性が立っており、まるでこちらを睨んでいるようであった。
咄嗟に叫び声をあげ、釣り道具を投げ捨てて車に戻ったという。
数日後、彼は高熱を出し、夢の中で何度もその女性に海へと引きずられる幻を見たと語っている。
板敷鼻の心霊考察
板敷鼻の心霊現象は、単なる噂や集団心理による錯覚では説明がつかない体験が多い。
歴史的背景として、かつてこの地で数多の血が流された事実と、戦死者の遺体が海へ捨てられたという風習がある。
そのため、この場所には未練を残したまま現世にとどまり続けている霊魂が数多く存在すると考えられる。
また、岩場という閉鎖的な地形、潮の流れ、そして日没時の視覚的な歪みなどが霊的現象をより強調し、心霊的な存在を実際よりも濃く感じさせている可能性もある。
だが、実際に霊を見た、声を聞いた、体に異変が起きたという体験者は後を絶たない。
これらの証言が真実であるならば、板敷鼻は、ただ美しい景色を持つだけではなく、深い怨念と未練が染みついた“触れてはならない”場所なのかもしれない。
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