岡山県笠岡諸島に今も残る『タテ』と呼ばれる無人島は、かつて海上の火葬場として使われ、多くの遺体が焼かれた忌まわしき場所である。その悲惨な歴史は怨念となり、現在も数々の不可解な怪異を引き寄せているという。今回は、タテ(海の火葬場)にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
タテ(海の火葬場)とは?
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岡山県笠岡市の沖合には、高島、白石島、北木島、真鍋島といった島々が浮かんでおり、これらを総称して笠岡諸島と呼ぶ。
そのうち北木島と白石島のほぼ中間に位置する、小さな無人島が『タテ』である。
正式名称は縦島というが、地元では古くから『タテ』と呼ばれ恐れられてきた。
この島は全長わずか40メートルほどの岩場に過ぎない。
しかし平成13年まで、この島は海上の火葬場として使われていたのである。
火葬施設があったわけではない。タブというクスノキ科の木でヤグラを組み、その上に遺体を寝かせ、松ヤニを油代わりに火をつけて野焼きした。
ときに夜半から明け方にかけて、風のない日を選んで執り行われたが、夏場は遺体が傷む前に焼かねばならず、風向きなど顧みられぬことも多かった。
そうした日には、髪の焼ける匂いや肉の焦げる悪臭が島々を包み込んだという。
そもそもなぜ、こんな小島で火葬をせねばならなかったのか。
明治期に二度もコレラが笠岡諸島を襲い、島内の火葬場では焼却が追いつかなくなったからである。
こうして『タテ』は死体を処理する島として選ばれ、長らく忌まわしい役割を担った。
さらに『タテ』だけではない。北木島の西には『ヨコ』と呼ばれる横辺島があり、そこでも同様に遺体が焼かれた。
地元の人々はそれをまるで対となる死の島々として恐れてきた。
タテ(海の火葬場)の心霊現象
タテ(海の火葬場)の心霊現象は、
- 黒く焦げた岩場の上に立つ正体不明の霊が目撃される
- 夜釣りに訪れた者が背後で火の手を見るが、振り返ると何もない
- 波間から無数の手が伸び、足を引こうとする
- 海底に沈められた戒名付きの墓石に触れると奇妙な声が聞こえる
である。以下、これらの怪異について記述する。
『タテ』では今も岩肌の一部が黒く焦げたままであり、かつてここで無数の遺体が焼かれた痕跡を生々しく残している。
そのためか、黒い岩の上に白い着物のようなものをまとった影が立っていた、という証言が絶えない。
また夜釣りに訪れた釣り客が、ふと背後に感じる熱気に振り返ると、そこには真っ赤な炎が上がっていた。
ところが次の瞬間、火は掻き消えたように跡形もなくなり、ただ潮風が吹き抜けるばかりだったという。
さらに釣り糸を垂らしている最中、足元の波間から無数の手が現れ、まるで海へ引きずり込もうとするように足を撫で回した、との証言もある。
恐怖のあまり足を引き抜き帰ろうとしたが、その足は生臭い何かで濡れていたそうだ。
極めつけは、海底に無造作に沈められた戒名付きの墓石に触れた者が、突如として耳元で「返せ…」という声を聞き、振り返ると誰もいなかったという話である。
タテ(海の火葬場)の心霊体験談
実際に『タテ』を訪れたある釣り人は、チヌを狙って夜明け前に磯へ降り立った。
すると遠くの岩の上にぼんやりとした白いものが立っているのに気づいた。
双眼鏡で覗いてみると、それは髪が焼けただれたようにボサボサと広がった女の霊だったという。
霊はゆっくりとこちらを向き、真っ黒な目でじっと見つめた。
恐怖に駆られ、そのまま釣り具を置き捨てて逃げ帰ったが、港へ戻ると釣り仲間から「背中に手形がいっぱい付いている」と言われたという。
タテ(海の火葬場)の心霊考察
『タテ』はただの無人島ではない。
死者を処理する場として、望まれず焼かれ、忘れ去られた無縁仏たちの怨念が今なお渦巻いているのであろう。
黒く焦げた岩は単なる歴史の痕跡ではなく、そこで絶命し燃え尽きた者たちの記憶を刻み続けているに違いない。
特にコレラによって慌ただしく火に投じられた遺体や、身寄りもなく罪を重ねた挙句にここで焼かれた者たちの魂は、未だ成仏できずこの小島に縛られているように思えてならない。
安易に足を踏み入れることは、彼らの安寧を再び乱す行為なのかもしれない。
好奇心で訪れるにはあまりに陰惨で、あまりに重い場所なのである。
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