※本稿は映画『残穢 ―住んではいけない部屋―』(2015)の結末まで触れる。
※自殺・事故死・差別・暴力の連鎖を想起させる描写を含むため、苦手な人は注意してほしい。
『残穢 ―住んではいけない部屋―』は、派手な演出も、強いビジュアルの幽霊もほとんど出てこない。
それにもかかわらず、この映画は観終わったあと、自分の住んでいる場所や、過去の土地の履歴を疑わせてくる。
この作品が描く怪異は、「出る」「襲う」「呪う」といった即物的なものではない。
人が住み、忘れ、上書きしてきた痕跡そのものが、静かに残り続けているだけである。
ここでは、心霊考察で用いてきた四層――
「現象」「構造」「人間心理」「後味」から、本作を整理する。
まず押さえる:『残穢』は“呪いの映画”ではない
本作をホラーとして分類すると、多くの人が戸惑う。
なぜなら『残穢』は、いわゆる「呪いを解く物語」ではないからだ。
- 原因を突き止めても
- 歴史を遡っても
- 真実に辿り着いても
何ひとつ解決しない。
この映画が描いているのは、
「祓えなかった怪異」ではなく、
「最初から祓われる想定すらされていないもの」である。
現象|怪異は“起きる”のではなく、ずっとそこにある
物語の発端は、ごく小さな違和感だ。
- 夜中に聞こえる、かすかな音
- 上の階から伝わる不自然な振動
- 部屋に漂う、説明できない感覚
どれも決定打ではない。
だが共通しているのは、「はっきりしない」ことだ。
『残穢』の怪異は、
- 見えない
- 触れない
- 襲ってこない
その代わり、日常の一部として溶け込んでいる。
だから人はこう思ってしまう。
気のせいかもしれない
自分が神経質なだけかもしれない
この“判断の猶予”こそが、怪異を長生きさせる。
構造|怪異は「人」ではなく「場所」に蓄積される
本作最大の特徴は、
怪異が個人に紐づかない点にある。
自殺した人物
事故を起こした人物
差別され、追い詰められた人物
彼らは“原因”ではない。
怪異は、
- 家
- 土地
- 建物
- 住所
そうした場所の履歴に沈殿していく。
重要なのは、
誰が悪かったかではなく、何が積み重なったかである。
住む
死ぬ
忘れる
次の人が住む
この循環そのものが、怪異を保存する。
人間心理|「知る側」ほど、逃げられなくなる
語り手である作家と、調査役の久保は、
最初は安全な立場にいる。
- 現地に住んでいない
- 調査は記録として行われる
- 距離を保てている
だが、調べるほどに立場が逆転する。
- 過去の事例を知る
- 共通点を理解する
- 連鎖の全体像が見えてくる
その瞬間、
「自分もこの構造の中にいる」と気づいてしまう。
ここが本作の残酷なところだ。
無知であれば、住み続けられたかもしれない。
だが、理解した時点で、安全圏は消える。
なぜ“引っ越せば終わらない”のか
多くのホラーには、逃げ道がある。
- 家を出る
- 地域を離れる
- 関係を断つ
しかし『残穢』では、それが成立しない。
なぜなら怪異は、
- 一軒の家
- 一つの部屋
に閉じていないからだ。
土地の履歴は、
- 転居先にも
- 職場にも
- 通学路にも
連続して存在している。
つまりこの怪異は、
都市そのものに染み込んでいる。
調査の果てに残る“何も変わらない現実”
終盤、すべての因果関係は繋がる。
- 事件の起点
- 差別の歴史
- 建物の成り立ち
だが、その瞬間に提示されるのは、救済ではない。
だから何だ、という事実
怪異は説明された。
だが、消えてはいない。
この構造は意図的だ。
説明=解決
という期待を、映画自体が拒絶している。
後味|この映画が生活に入り込む理由
『残穢』が厄介なのは、
観終わったあとに何も起きない点である。
- 何かが見えるわけでもない
- 急に怖くなるわけでもない
ただ、こうした思考が残る。
- この建物は、いつ建ったのか
- 前に住んでいた人は、どうなったのか
- なぜ、家賃が少し安いのか
日常を疑わせる種だけが、静かに残る。
それは恐怖というより、
生活の信頼性が削られる感覚に近い。
まとめ|『残穢』は怪異を「終わらせない映画」である
『残穢 ―住んではいけない部屋―』は、
幽霊映画ではない。
これは、
- 忘却
- 上書き
- 無関心
そうした人間の営みが、
どのように“何かを残してしまうか”を描いた映画である。
祓われない。
解決しない。
終わらない。
だからこの怪異は、
映画の外――観ている側の生活にまで滲んでくる。
そして気づいた時には、
もう一度この映画を思い出してしまう。
それ自体が、
この作品のいちばん厄介な点である。
引用:Amazon
残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―
奇妙な「音」をきっかけに、一室の怪異が過去へ、土地へ、人へと連鎖していく。 怪異はその場に留まらず、関わった者の人生そのものに染み込んでいく。 静かで理屈の通った怖さが、後からじわじわ効いてくる作品である。
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