ホラーとは、何が怖いのか。
幽霊か、呪いか、それとも血や悲鳴か。
『この動画は再生できません THE MOVIE』は、その問いに対して、
きわめて現代的で、そして不愉快な答えを差し出してくる作品である。
この映画に、派手な怪異はほとんどない。
ジャンプスケアも、過剰な残酷描写も控えめだ。
それでも観終わった後、どこか胸の奥が冷える。
理由は明確である。
本作が描いているのは「幽霊」ではなく、
映像を“作る側”が持つ視線と責任の歪みだからだ。
本稿では、これまで心霊考察記事で用いてきた四層――
「現象」「構造」「人間心理」「後味」から本作を整理し、
・なぜこの映画はホラーとして成立しているのか
・何が本質的に怖いのか
・そして、最後に残る違和感の正体は何なのか
を順に考察していく。
第一層:現象 ――「再生できない映像」に何が起きているのか
表面上、本作で起きていることはシンプルである。
・倒産した映画会社の倉庫から見つかったDVD
・世直し系配信者の廃ビル生配信
・街歩き番組に紛れ込んだ違和感
それらを、編集マンの江尻とオカルトライターの鬼頭が検証し、
映像に隠された嘘や矛盾を読み解いていく。
ここで重要なのは、
怪異そのものは「映像の中」にしか存在しないという点だ。
・赤い光は霊現象ではなく赤外線
・耳鳴りには物理的な原因がある
・カメラの画角、編集、文字フォントが意味を持つ
つまり本作の恐怖は、
「見えないものが現れる」のではなく、
「見えているものが信用できなくなる」ことから生まれる。
幽霊が出るから怖いのではない。
映像が嘘をつくと知ってしまうこと自体が怖いのである。
第二層:構造 ―― フェイクドキュメンタリーが持つ罠
この映画の中核にあるのは、フェイクドキュメンタリーという形式だ。
フェイクドキュメンタリーは、
・事実っぽく見せる
・偶然を装う
・説明を省き、観客に考察を委ねる
という特徴を持つ。
『この動画は再生できません』は、
その構造をさらに一段階ひねっている。
ポイントはここだ
「映像を見ている観客」
↓
「映像を編集している江尻」
↓
「その江尻すら撮影されている」
という入れ子構造。
ラストで明かされる、
江尻のPCカメラによる“隠し撮り”は象徴的である。
・誰かを撮っているつもりが
・いつの間にか、自分もコンテンツになっている
この構造が示すのは、
映像の世界にいる限り、誰も安全圏にいないという現実だ。
幽霊よりも怖いのは、
「撮る側」だと思っていた自分が、
いつの間にか「撮られる側」に回っていることなのである。
第三層:人間心理 ―― 悪意はどこから生まれるのか
本作における最大の悪は、
はっきりとした怪物ではない。
それは、作品至上主義であり、
正義を名乗る自己正当化である。
塚原という人物
塚原は、
・過去の罪を隠すために殺し
・作品を残すために人を犠牲にする
彼の台詞――
「でも映画は残るんだよな」
は、本作の核心を突いている。
これは極端な悪人の話ではない。
・再生数のために
・話題性のために
・“面白いから”という理由で
誰かの人生を消費する行為は、
私たちの日常にも溢れている。
そしてもう一つ重要なのが、鬼頭の存在だ。
彼は未成仏の幽霊でありながら、
この作品で最も「人間らしい距離感」を保っている。
江尻が論理で突き進むとき、
鬼頭は軽口を叩き、ブレーキをかける。
幽霊である鬼頭の方が、
よほど生者の倫理を覚えている――
この皮肉こそが、この映画の怖さである。
第四層:後味 ―― 本当に「再生できなかった」のは何か
事件は解決する。
犯人は明らかになる。
命も助かる。
だが、後味は決して軽くない。
なぜなら、
問題の根本は何一つ解決していないからだ。
・映像はまた作られる
・編集は続く
・誰かの日常は、またコンテンツになる
ラストの「見えてますよね」という一言は、
観客にも向けられている。
私たちは、
この映画を「考察して楽しんだ側」だ。
その時点で、
他人の不幸を“映像として消費した側”でもある。
だからこの映画は、
観終わったあとにこう問いかけてくる。
――次に再生されるのは、誰の人生だ?
まとめ:『この動画は再生できません THE MOVIE』が描いた現代ホラーの正体
この作品が示した恐怖は、
幽霊でも呪いでもない。
・映像は証拠ではなく「選択」である
・何を映し、何を隠すかで現実は歪む
・そしてその歪みは、必ず誰かを傷つける
だから怖い。
焚き火のような軽妙さで包みながら、
刃物のような問いを突きつけてくる。
『この動画は再生できません THE MOVIE』は、
「ホラーが苦手でも観られる映画」ではなく、
ホラーが得意な人ほど、逃げ場を失う映画である。
再生できないのは、
映像ではない。
良心の方だ。
——そんな後味だけが、静かに残る。
引用:Amazon
この動画は再生できません THE MOVIE
いわくつきの映像だけが集められたDVDや配信データ。 編集と検証を進めるほど、映像の裏に潜む「意図」が輪郭を持ちはじめる。 再生してはいけない理由は、観終わったあとになって静かに追いついてくる。
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