沖縄のある静かな村に、小学生たちが毎朝通学に使う道があった。
村人たちはこの道を「風見通り」と呼んでいた。
両側に古い石垣が続き、道の上には大きなガジュマルの木々が枝を広げていた。
日が昇る前は、ガジュマルの影が道を覆い、昼間でも薄暗く、子どもたちにとっては少し不気味な場所だった。
ある日、通学中の小学生の一人、健太が「何か変だ」と気づいた。
道を歩いていると、誰かが後ろからついてくる感覚があるのだ。
振り返っても、誰もいない。
しかし、足音だけは確かに聞こえてくる。
シャリ…シャリ…。
砂利道を歩く音が、健太の背後で絶え間なく続いていた。
最初は気のせいだと思い、気にしないようにしていた健太だったが、毎日同じことが繰り返されるうちに、その足音はますます大きく、鮮明に聞こえるようになっていった。
誰もいないはずの通学路で、どうして足音だけが聞こえるのか?
恐怖に駆られた健太は、次第にその道を避けるようになった。
しかし、そんなある日、健太が学校から帰宅する途中で突然姿を消した。
村中が健太を探したが、彼の痕跡はどこにも見つからなかった。
彼が最後に見られたのは、いつもの風見通りの入り口だった。
村にはすぐに奇妙な噂が広がった。
「風見通りで、何者かが子どもたちを連れて行ってしまう」というものだった。
ある者は、かつてこの道で亡くなった魂がさまよっていると語り、また別の者は、ガジュマルの精霊が子どもたちをさらっているのだと言った。
健太の失踪から数週間が経ったある日、彼の親友だった真司が、健太の行方を追おうと決心した。
夜が更けた頃、真司は一人で風見通りを歩き始めた。
暗闇の中、彼はふと健太が感じていたのと同じ奇妙な気配を感じた。
誰かが後ろをついてくる…足音がすぐ背後から聞こえてくる。
真司は振り返った。しかし、そこにはやはり誰もいない。
ただ、足音だけが途絶えることなく続いていた。
恐怖に包まれた真司は、走り出そうとしたが、その瞬間、彼の足は動かなくなった。
何か見えない力が、彼をその場に縛りつけていた。
足音はますます大きくなり、まるで真司のすぐ耳元で響くかのようだった。
そして、真司の視界が次第に暗くなり、彼はその場に倒れ込んだ。
翌朝、村人たちが真司を探しに来たが、彼もまた、健太と同じように姿を消していた。
二人の失踪を境に、村の子どもたちは誰も風見通りを通らなくなった。
そして、村人たちはこの道を「消える道」と呼び、誰も近づかなくなった。
風見通りは今もなお、静かに村の中に存在しているが、そこを通る者は皆無だ。
夜になると、ガジュマルの木々が不気味に揺れ、その中からかすかな足音が聞こえてくるという。
あの二人の少年たちは、どこに消えてしまったのか、誰も知る由もない。
ただ一つ確かなのは、風見通りを通る者は二度と帰ってこないということだ。
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