お盆の帰省中、夜遅くに田舎道を車で走らせていた。
辺りは街灯もなく、暗闇が深く沈んでいた。
車のヘッドライトだけが、細い一本道を淡々と照らし、静寂がそのまま続いていた。
時計を見ると深夜を回っていた。眠気を感じつつも、早く家に戻りたい一心で、俺はハンドルを握り続けていた。
カーステレオは消してあり、車内はただエンジン音だけが響いている。
そんな時、前方に何かが見えた。
暗い道の中に、ぼんやりと白い影が浮かび上がったのだ。
「なんだ…?」
一瞬、目の錯覚かと思ったが、次第にはっきりとその姿が見えてきた。
それは、道の真ん中に立つ白い着物姿の女性だった。
長い黒髪が肩にかかり、こちらをじっと見つめている。
思わずブレーキを踏み込み、車は急停止した。
心臓がバクバクと鼓動を打ち、手が汗ばんだ。
視線を前方に向けると、そこにはもうその女性の姿はなかった。
まるで最初から何もなかったかのように、道はただ暗闇に戻っていた。
「気のせい…だったのか?」
恐る恐る息を整え、車を再び動かそうとした瞬間、背後に違和感を感じた。
ぞっとするような寒気が、背中を走り抜けた。
「後ろ…?」
ゆっくりと後部座席に視線を向けると、そこに、先ほどの女性が座っていた。
白い着物を身にまとい、長い黒髪が揺れている。
彼女は静かに微笑んでいたが、その笑顔はどこか冷たく、無機質だった。
目は虚ろで、まるで生きていないかのような表情だった。
全身が凍りつき、体が動かなくなった。
逃げ出したい気持ちでいっぱいだったが、恐怖に縛られた俺は、その場で固まってしまった。
「ここで…終わりなのか…?」
そう思った瞬間、ふっと女性の姿は消えた。
後部座席には、もう誰もいない。
ただ静かな車内が広がっていた。
「今のは…なんだったんだ…?」
全身が汗でびっしょりと濡れ、震えが止まらないまま、俺はその場を後にした。
道は何事もなかったかのように続いていたが、心の中には不気味な感覚が残り続けた。
その夜の出来事は、あの田舎道で俺が一人見た幻だったのか。
それとも、お盆の時期に紛れ込んできた、あの世からの訪問者だったのだろうか。
今でも、あの冷たい笑顔は頭から離れない。
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