抱返り渓谷は、秋田県の美しい自然景観と観光名所で知られる場所だが、滝にまつわる自殺の名所としての伝説など、数多くの不気味な現象が語り継がれている。今回は、抱返り渓谷にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
抱返り渓谷とは?

抱返り渓谷は、秋田県仙北市に位置する景勝地であり、田沢湖抱返り県立自然公園内にある。
全長約10kmに及び、雄物川支流の玉川中流域に広がる渓谷である。
この地は「東北の耶馬渓」とも称され、巫女岩や山伏岩、茣蓙の石といった奇岩に加え、百尋滝や回顧の滝といった壮大な滝が見どころとされている。
最上流には神代ダムがあり、田沢湖の南に広がる自然美を堪能できる場として多くの観光客が訪れる。
「抱返り」という名の由来は、道幅が狭くすれ違いが困難なため、人々が互いを抱き返すようにして通ったという故事によるものだ。
抱返り渓谷の心霊現象
抱返り渓谷の心霊現象は、
- 正体不明の霊が出現する
- 手彫りトンネルに「四つん這いの老人」が現れる
- トンネル内で「ごめんなさい」と言うと身体が重くなる
- 渓谷の川に子供の霊が出る
- 滝周辺は自殺の名所として知られている
である。以下、これらの怪異について記述する。
抱返り渓谷では、観光客に交じって“何者か”が彷徨っていると噂されている。
その姿は明確に捉えられたことはないが、気配だけを残して突如として姿を消すため、正体不明の霊とされている。
また、渓谷に点在する手彫りのトンネルのひとつでは、「四つん這いで這う老人」が目撃されている。
身体がねじれたような不自然な姿勢で、無言のままトンネルの奥に消えるという。
さらにこのトンネル内で「ごめんなさい」と声に出してしまうと、急に身体が鉛のように重くなり、動けなくなるという霊障が報告されている。
謝罪の言葉に反応する“何か”が棲みついているとも囁かれている。
渓谷を流れる川では、子供の霊が目撃されており、その背景には水難事故の記録があるという。
透き通った流れに浮かび上がる小さな影が、音もなく川底へと沈んでいく様子を見たという証言もある。
加えて、回顧の滝など渓谷に点在する滝は自殺の名所としても知られ、亡くなった者の無念が今なお残っているとされる。
滝壺の水面に浮かぶ白い影、そして人の気配がしないはずの山中で響く声なき声。
これらすべてが、ここに未練を残す魂の存在を示唆している。
抱返り渓谷の心霊体験談
これは11月頃に、ある男が一人で抱返り渓谷を訪れた時の話である。
冬季閉鎖を知らず、遠方からの訪問だったためバリケードを越えて進んだという。
時刻は16時。日が傾き、渓谷には既に冷気が満ちていた。
途中の手彫りの洞窟は電気も通っておらず、完全な闇に包まれていたが、10分ほどで回顧の滝に到着した。
ここで通常は引き返すのだが、男は“通行止め”の先へと足を踏み入れた。
その先は道が崩れ、柵は折れ、雑草が絡みつき、橋は落ちかけていた。
わずか5分で、完全に崩れた橋に行き当たる。
そしてそこで、突然、背筋を這い上がるような寒気に襲われる。
振り返ると、そこにはひとつの石仏――お地蔵様が静かに立っていた。
その異様な空気に急ぎ手を合わせ、その場を離れようとした時、朽ちかけた看板が視界に入る。
「この地で紅葉狩りをしていた兄妹が転落。妹を助けようとした兄は帰らぬ人となった」と書かれていた。
あの地蔵は、その兄の慰霊だったのである。
恐怖に追い立てられるようにして元来た道を引き返す男。
帰りの洞窟は来るとき以上に異様で、暗闇の奥から何かが見つめてくるような感覚に襲われたという。
抱返り渓谷の心霊考察
抱返り渓谷は、自然の美しさの裏に、幾重にも折り重なる“死”の記憶を抱えている場所である。
手彫りのトンネルに現れる異形の老人は、かつてここを掘った者たちの魂が残留した姿なのかもしれない。
また「ごめんなさい」で発生する霊障は、過去に許されぬ罪がこの地に刻まれていることを示している。
川に現れる子供の霊は、水難事故の犠牲者とされ、その存在は事故死者への追悼と未練の象徴であるといえる。
そして滝に纏わる自殺の噂は、自然が静かに命を呑み込んできた証であり、今もその記憶を水面下に封じ込めているのだ。
抱返り渓谷の自然美に心を奪われた者は少なくないが、その裏にある“もうひとつの顔”を知ることで、ここがただの観光地ではなく、死者と生者がすれ違う異界の入口であることに気づかされる。
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