高知県香南市の手結山に残る「征天工隧道」は、かつて土佐電気鉄道安芸線として使われていた廃隧道である。現在はサイクリングロードとして整備されているが、夜になると白い服を着た女性の霊が現れるという噂が絶えない。今回は、征天工隧道にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
征天工隧道とは?

征天工隧道は、かつて土佐電気鉄道安芸線の一部として利用されていた鉄道隧道である。
現在は廃線となり、整備されて「サイクリングロード」として利用されている。
内部は明るく舗装され、照明も取り付けられているため、日中は一見して平和な雰囲気を漂わせている。
しかし、隧道内には電鉄時代の碍子や、鉄板で塞がれた退避坑が今も残っており、明るさの奥にどこか湿った古さと、時間の止まった空気が漂っている。
征天工の扁額には、当時の三十四銀行頭取・菊池恭三の名が刻まれており、民間鉄道としての誇りと技術の象徴であったことがうかがえる。
手結山には大小六本の隧道が存在し、交通の難所でありながら、人々の生活を支え続けてきた。
しかしその一方で、この一帯は、古くから霊が出る場所として知られてきたという。
征天工隧道の心霊現象
征天工隧道の心霊現象は、
- 髪の長い白い服の女性の霊が現れる
- 隧道内部で足音や衣擦れの音が響く
- 塞がれた退避坑の奥からノック音が聞こえる
- トンネルを出た後に、背後から誰かに見られている感覚に襲われる
である。以下、これらの怪異について記述する。
最も多く語られるのが、白い服を着た女性の霊である。
夜間にこの隧道を通ると、坑口の闇の奥に人影が立っているのが見えるという。
その姿は、髪が長く、ぼんやりと光を反射するような白衣をまとっており、近づくと霧のように消えるとされる。
また、照明が設置されているにもかかわらず、内部で「コツ、コツ」と靴音のような音が響くことがあるという。
風やサイクリストの音では説明できない、規則的な足音が耳に残るのだ。
さらに不気味なのは、鉄板で閉鎖された退避坑から聞こえるというノック音である。
内部は完全に封鎖されており、人が入れるはずもないのに、まるで誰かが「開けてくれ」と叩いているかのような音がするという。
隧道を抜けたあと、ふと背後を振り向くと、誰もいないのに「見られている」と感じることもある。
その視線の気配は、海風のように冷たく、長く尾を引くという。
征天工隧道の心霊体験談
ある地元の男性が、夜に自転車で隧道を通り抜けたときのことである。
中ほどに差しかかったとき、背後から「足音」がついてくるのに気づいた。振り向いても誰もいない。
再び走り出すと、今度は鉄板で塞がれた退避坑の方から、コンコン、と叩くような音が響いたという。
怖くなって一気に出口まで走り抜け、外の明かりに飛び出した瞬間、背中にひやりとした風がまとわりついた。
彼は後にこう語っている。
「外に出ても、誰かに背後から見られている感じがずっと消えなかった。帰ってからもしばらく、部屋の隅に白い影が立っている気がした」
征天工隧道の心霊考察
征天工隧道の霊現象は、いずれも「音」と「視線」に関するものである。
これは、この場所がかつて電鉄の通り道であり、多くの人が行き交い、やがて忘れられたことに由来しているのかもしれない。
長い年月の中で、列車の音が消え、照明の光が当たっても消えない“何か”が残っている。
封鎖された退避坑の奥に響く音は、失われた時代の残響であり、過去にこの場所を通り抜けた者たちの記憶なのかもしれない。
今では明るく整備され、観光客やサイクリストが安心して通れる場所となっている。
しかし、征天工隧道に足を踏み入れるとき、ふと背後に感じるあの視線だけは、今もなお生き続けているのかもしれない。
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