愛媛県今治市菊間町の青木地蔵堂は、お遍路の通夜堂として知られる一方で、一部では「決して泊まってはならない」と恐れられてきた場所である。今回は、青木地蔵堂にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
青木地蔵堂とは?

青木地蔵堂は、今治市菊間町種に位置する無人の小堂である。
場所は太陽石油の工場裏手の森にひっそりと存在し、巡礼者のための“通夜堂”と呼ばれる簡易宿泊所を備えている。
お遍路の途中で立ち寄る者にとっては一時の休息の場となるが、同時に「絶対に泊まってはならない」とささやかれる場所でもある。
その理由は、ここで語り継がれる凄惨な歴史と、数多の怪異である。
青木地蔵堂の地には、かつて隠れキリシタンが処刑されたという暗い過去がある。
菊間には隠れキリシタンの墓が多く残されており、この場所もまたその血塗られた歴史と無関係ではないとされている。
さらに、境内に立つ三本の大木のうち一本は、十数人ものお遍路が首を吊ったという忌まわしい逸話に彩られている。
青木地蔵堂の心霊現象
青木地蔵堂の心霊現象は、
- 就寝時に白い顔の霊に囲まれる
- 障子の向こうに十人ほどの人影が正座して並ぶ
- 深夜に重く響く足音が聞こえる
- 境内の大木で首を吊った霊が現れる
である。以下、これらの怪異について記述する。
まず最も有名なのは、通夜堂に宿泊した際に体験する現象である。
布団に横たわり、眠りに落ちかけたとき、ふいに冷たい気配に目を覚ますと、周囲を白く蒼ざめた顔の霊が取り囲んでいるというのである。
その数は一体や二体ではなく、複数。息を殺すようにして見つめてくるという光景は、正気を保てるものではない。
また、障子の向こう側に、十人前後の人影が正座して並んでいる姿が目撃されている。
声を発することもなく、ただじっと座しているその影は、かつて処刑されたキリシタンの霊であるとも、首を吊ったお遍路の成れの果てであるとも言われる。
深夜、誰も歩いていないはずの廊下から足音が響くこともある。
その足取りは重く、ぎこちなく、まるで義足を引きずるような音である。
実際、青木地蔵堂には義足や松葉杖が供えられており、それらと霊の足音が奇妙に結びついていると囁かれている。
まるで死後もなお歩行訓練を続けているかのような不気味さである。
そして境内の大木。そこには十数名が首を吊ったという噂が絶えず、その霊が夜ごとに姿を現すと恐れられている。
幹には爪痕のような傷が刻まれているともいい、風の音とともに、かすかな呻きが聞こえたという話も伝わる。
青木地蔵堂の心霊体験談
実際に青木地蔵堂の通夜堂に宿泊した者の証言によれば、「夜中、障子の外に何かの影が動く気配がした。目を凝らすと、人影が列をなして座っているのが見えた。しかし、次の瞬間には影は消えていた」という。
また、ある者は「寝静まった境内に、木の床を踏みしめるような足音が近づいてきた。恐怖のあまり息をひそめたが、音は布団のすぐ傍まで来て止まった」という体験を語っている。
表向きは清潔に保たれ、遍路たちに利用されている場所であるが、そこに一夜を過ごした者の一部は、忘れられない悪夢を持ち帰るのである。
青木地蔵堂の心霊考察
青木地蔵堂の怪異は、単なる噂にとどまらず、歴史的背景と密接に結びついていると考えられる。
隠れキリシタンが処刑された土地柄、無念の死を遂げた魂が今なお成仏できず、訪れる者に姿を見せている可能性がある。
また、巡礼途中で自ら命を絶ったお遍路の霊も、この地に引き寄せられているのかもしれない。
義足や松葉杖が供えられていることも、不気味さを一層増している。供物として奉納されたものが、やがて霊の気配を呼び込み、通夜堂を「足音の絶えぬ場所」としてしまったのだろう。
青木地蔵堂は、表向きは信仰と巡礼の場でありながら、裏側には数えきれぬ死者の気配が漂う場所である。
静かな堂内に横たわる時、そこに響く足音や人影は、過去と現在を隔てる境界がどれほど脆弱であるかを思い知らせるものである。
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