高知県いの町の咥内坂にひっそりと祀られる「ひだる地蔵」は、空腹をもたらす悪霊・ヒダル神にまつわる伝承を残す地蔵である。首を切られた際には祟りによる火災が起きたとも伝えられ、峠を食べ物なしで通る者は強い空腹感や倦怠感に襲われるといわれる。今回は、ひだる地蔵にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
ひだる地蔵とは?

ひだる地蔵は、高知県吾川郡いの町枝川にある咥内坂(こうないざか)の旧道沿いに祀られている地蔵である。
この咥内坂は、坂本龍馬が脱藩の際に通った「脱藩の道」として知られる峠道であり、古くから人々の往来が多かった場所である。
かつては峠を越える旧道沿いに地蔵が建っていたが、高速道路の建設に伴い移設された。
その際、設置場所に反対していた男が地蔵の首を切断したという。
のちに、その男の自宅が原因不明の火災により全焼し、「地蔵の祟り」として恐れられるようになった。
現在は首も修復され、再び静かに祀られている。
ひだる地蔵の心霊現象
ひだる地蔵の心霊現象は、
- 祟りに遭う
- 強烈な空腹と倦怠感
である。以下、これらの怪異について記述する。
「ひだる」とは、土佐弁で「ひもじい」「空腹である」を意味する言葉であり、「ヒダル神」という憑き物信仰に由来している。
ヒダル神とは、山道などで旅人に強烈な空腹と疲労を与える悪霊の一種で、憑かれた者は力が抜け、手足が痺れ、ひどい場合はその場で命を落とすこともあるとされる。
この地蔵は天保七年(1836年)に「牛馬災難」の供養のため建立されたもので、当時からこの峠は牛馬や旅人にとって厳しい難所であった。
峠を越える人々は、ヒダル神を避けるために食べ物を供え、祠の前を通る際には「何か口にするものを持て」と言い伝えられていた。
ある夜、婚礼帰りの若者が咥内坂を通った際、急に激しい空腹感に襲われ、足が動かなくなったという。
若者は宴席で満腹であったにもかかわらず、体は飢えに蝕まれ、冷や汗を流しながらその場で立ち尽くした。
夜明けを祈っていると、偶然通りかかった男が握り飯を持っており、その一粒を口にした瞬間、悪寒も飢えも消え失せたという。
この出来事以来、咥内坂を食べ物を持たずに越えることは禁忌とされ、地蔵は“ひだる地蔵”として祟りと守護の両面を併せ持つ存在として恐れられるようになった。
ひだる地蔵の心霊体験談
現在、明確な心霊体験談は少ないが、地蔵の前で急に息苦しくなったという報告がある。
また、地蔵を悪戯目的で撮影した者が、帰宅後にカメラが故障したり、体調を崩したといった噂もある。
こうした体験は、単なる偶然と片付けるには不気味な一致が多く、地蔵に対して軽んじた行為が原因であると信じられている。
ひだる地蔵の心霊考察
ひだる地蔵の伝承は、単なる迷信ではなく、古来より「山の霊」を畏れ敬う民間信仰の形を残しているといえる。
ヒダル神は、山道を軽んじた人間に“空腹”という形で死の恐怖を与える存在であり、命の危険を警告する象徴でもある。
首を切られた地蔵が祟ったという話は、単なる偶然ではなく、土地そのものに宿る“禁忌”を犯したことへの報いとも考えられる。
咥内坂は龍馬の脱藩道として知られる一方で、古来から“通る者を試す峠”でもあった。
地蔵はその境に立ち、人と異界の境界を見守る存在として今も静かに佇んでいるのである。
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