当ブログ宛に一通のメールが届いた。差出人は「月夜」と名乗る人物であり、そこには三十年前に川口市で体験したという心霊体験が綴られていた。舞台は墓場跡に建てられた中学校裏。深夜の校庭から響いてきたのは、スピーカー越しのような少年の「かぞえ声」であった――。さらに同じ地域の「青木水門」にまつわる怪異についても語られており、土地に刻まれた記憶が今なお人を惑わせているのではないかと思わせる内容である。
深夜の遭遇
それは三十年ほど前の出来事である。
体験者はバイト帰り、自転車で川口オートレース場方面へと走っていた。
時刻は深夜一時。
人気はなく、民家の窓はどれも暗く閉ざされていた。
やがて青木中学校の裏を通りかかった時、静寂を破るように声が響いた。
それは校庭の方角からであった。まるでスピーカーを通したかのような、大きな少年の声である。
――「いーーーーーち……にーーーーーい……」
かぞえ声である。
校庭に人影は見えず、近隣の家々からも明かりは漏れない。夜更けの町に響くその声だけが、不自然なほど強く耳に届いていた。
――「さーーーーーん……よーーーーーん……」
体験者は直感した。
「これは俺にしか聞こえていない。十まで数えられたら命を取られる」
恐怖が全身を突き上げ、自転車のペダルを必死に踏み込む。
逃げ場として頭に浮かんだのは、近くの氷川神社であった。
――「なーーーーーな……はーーーーーち……」
その声を最後に、体験者は中学校の敷地を抜け去った。
振り返ることもできず、ただ無我夢中で走り続けたという。
土地の記憶
後日、父親にこの体験を語ったところ、衝撃の事実を耳にする。
「青木中学校の場所は、昔は墓場だったんだ」
語られなかった土地の記憶が、深夜の声となって蘇ったのだろうか。
数を数える少年の声は、あの世とこの世の境を知らせる合図であったのかもしれない。
青木水門の怪
同じ川口市内には、もうひとつ心霊の噂がある。「青木水門」である。
テレビ番組や動画では「自殺者多数」と紹介されることもあるが、地元の証言によればそのような事実は確認されていない。
しかし、そこで霊を見た者は存在する。
体験者の母は、幼少期に遊んだこの土手で幽霊を目撃している。
自殺者はいなくとも、“そこに居る”存在だけは否定できなかった。
心霊考察
墓場跡に建てられた中学校、そして水辺にまつわる水門。
どちらも人の境界に位置する場所である。そこでは、人ならぬ声や姿が現れる。
夜半の「かくれんぼ」は、土地に封じられた記憶の断片であり、子どもの声に仮託された“死の数え歌”であったのかもしれない。
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