高知県香美市の山間に位置する永瀬ダムは、物部川の洪水調節や発電を担う重要な多目的ダムである。その建設の裏では、過酷な工事によって多くの犠牲者が出たとされ、現在もその慰霊塔が静かに建っている。今回は、永瀬ダムにまつわるウワサの心霊話を紹介する。
永瀬ダムとは?

永瀬ダムは、高知県香美市香北町、物部川の中流域に位置する多目的ダムである。
物部川は古来より「暴れ川」として知られ、洪水と干ばつを繰り返してきた。
地域の住民たちは長年、安定した水の確保と洪水被害の防止を願い続け、大正時代からダム建設の構想が立てられていた。
しかし、戦争によって計画は中断され、実現には至らなかった。
戦後、昭和21年に再び建設運動が高まり、国の河水統制事業として正式に採択される。
昭和25年より本格的な工事が始まり、転流工や基礎掘削を経て昭和31年に完成した。
その総工費は約40億円、完成までに要した年月は5年8ヶ月に及ぶ大工事であった。
この永瀬ダムの建設により、柳瀬地区や水通地区などが水没し、221戸の家屋が立ち退きを余儀なくされた。
また、工事中には落盤や事故が相次ぎ、25名もの作業員が命を落としたという。
現在、ダム近くに建つ慰霊塔は、その殉職者たちを静かに弔っている。
永瀬ダムの心霊現象
永瀬ダムの心霊現象は、
- 夜中、ダム周辺で作業員のような姿を見たという報告
- 慰霊塔の前で人影が立ち尽くしていた
である。以下、これらの怪異について記述する。
永瀬ダムでは、最も多く語られるのが「夜間の作業員の霊」である。
夜になると、かすかなライトを照らしながらダムの斜面を歩く人影が目撃されるという。
その姿は安全帽をかぶり、作業服姿のまま俯いて歩いており、声をかけても反応しない。
やがて霧の中に溶けるように姿を消すのだという。
また、慰霊塔の周辺では「人の気配」を感じるという証言が絶えない。
風もないのに供花が揺れ、誰もいないのに足音が続くことがある。夜に訪れた者の中には、背後から「おい」と呼びかけられたと語る者もいる。
湖面に浮かぶ灯籠が幻想的な「奥物部湖湖水祭」でも、異様な現象が報告されている。
灯籠がすべて静止している中、ひとつだけ強い流れに逆らうように動き、やがて湖の中央で止まったという。
その灯籠が指す先には、工事中に崩落が起きた岩壁があると伝えられている。
永瀬ダムの心霊体験談
ある地元男性の話によると、夏の深夜に友人とダムを見に行った際、車のエンジンを止めた瞬間、ラジオから「うう……」という途切れた声が聞こえたという。
その周囲には電波を受信できる施設はなく、車を再始動してもラジオは沈黙したままだった。
別の女性は、湖水祭の夜に撮影した写真に、白い作業服のような姿が写り込んでいたと話す。
写真の位置を確認すると、それはかつて落盤事故が起きた現場付近だったという。
永瀬ダムの心霊考察
永瀬ダムにまつわる霊的現象は、単なる噂に過ぎないと片づけることもできる。
しかし、25名もの命が工事の最中に失われ、792名が故郷を離れることになったという重い歴史が存在するのも事実である。
夜のダムに漂う静寂は、完成の裏で犠牲になった者たちの“記憶”そのものなのかもしれない。
慰霊塔に刻まれた名が語らずとも、永瀬ダムという巨大な構造物の奥には、今もなお沈黙のまま、彼らの痕跡が眠っているのである。
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