徳島県美馬市にある「うだつの町並み」には、歴史ある美しい景観の裏側に、人々が語り継ぐ不可解な現象が潜んでいるという。今回は、うだつの町並みにまつわるウワサの心霊話を紹介する。
うだつの町並みとは?

うだつの町並みは、吉野川北岸の交通の要衝に位置し、古くは脇城の城下町として成立した町並みである。
阿波藍の集散地として発展し、江戸中期から昭和初期にかけて建てられた85棟もの伝統的建造物が今も残る。
最大の特徴は、町家の二階外壁面から突き出た漆喰塗りの袖壁「うだつ」であり、防火機能を持ちながらも家格の象徴として豪商たちが競い合うように装飾を施したものである。
寄せ棟造りの屋根に本瓦葺き、鬼瓦を正面に構えた重厚な家々が並び、江戸から近代の景観がそのまま息づいている。
現在は国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、観光地として整備されているが、観光客の間では「特定の一角に差しかかると急に息苦しくなる」「誰もいないはずなのに視線を感じる」などの不可解な体験談が後を絶たない。
うだつの町並みの心霊現象
うだつの町並みの心霊現象は、
- 織本屋周辺で冷水を浴びせられたような感覚に襲われる
- 視界の端に着物姿の人影が立つ
- 夜間、人通りのない通りで足音が背後からついてくる
- 声をかけられたのに振り向くと誰もいない
である。以下、これらの怪異について記述する。
まず有名なのが「織本屋」の周辺で起こる異変である。
霊感が強い者は、建物の前を通ると突如として背筋を冷水が流れるような感覚に襲われるという。
これは単なる気温差ではなく、骨の芯まで染み込むような冷気であり、経験者の多くが「生きている人間の気配ではなかった」と証言している。
また、白壁の間に伸びる細い路地では、日中にも関わらず視界の端に古風な着物を纏った人影が映ることがある。
振り向いた時には必ず誰もおらず、その残像だけが網膜に焼きつくという。
さらに、夜間には舗装された石畳を「コツ、コツ」と靴音がついてくる現象がある。
歩を止めると靴音も止むが、再び歩き出すと距離を保ちながらついてくる。
背後を振り向くと、闇が深く沈んでいるだけで何もいない。
中には、耳元で自分の名を呼ばれたと証言する者もいる。
しかしその声の主を探すことはできず、妙な湿気を帯びた空気だけが残るという。
うだつの町並みの心霊体験談
ある観光客の男性は、夕暮れ時に織本屋の前を歩いていた際、背後から「すみません」と声をかけられた。
振り返ると誰もいない。それどころか、通り全体が不自然なほど静まり返っており、遠くの家々の窓も全て閉ざされていた。
次の瞬間、背中に氷の塊を押し当てられたような感覚が走り、思わず前につんのめった。
慌てて町並みを抜けたが、振り返った時、織本屋の二階窓に白い顔がこちらを覗いていたという。
そこは展示用で人が立ち入れないはずの部屋であった。
うだつの町並みの心霊考察
これらの現象は、うだつの町並みに流れる霊道と関係している可能性が高い。
吉野川の流れと複数の街道が交わるこの土地は、古くから人と物の往来が絶えなかった。
そのため、数多の人間の喜怒哀楽が交錯し、やがて死者の魂もこの地に留まりやすくなったのではないかと考えられる。
特に織本屋周辺は、藍商や豪商たちの盛衰を見つめ続けた歴史の中心であり、商いのために犠牲となった者、無念を抱えたまま世を去った者の念が強く残っているのかもしれない。
観光地として整えられた今も、その念は消えず、通りを行く人間に触れようとするのである。
表向きは美しい歴史的景観であっても、その奥底には過去から抜け出せない者たちの声なき囁きが、確かに息づいているのである。
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