広島県福山市にひっそりと残る廃墟、大谷荘。かつては温泉宿として人々の憩いの場であったこの場所には、今や無数の曰くがまとわりつき、足を踏み入れた者は不可解な現象に苛むという。今回は、大谷荘にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
大谷荘とは?

大谷荘は、広島県福山市本郷町にかつて存在した旅館であり、その後学生寮や宗教団体の集会所として使われた建物である。
場所は県道158号線沿い、本郷温泉の一角に位置していた。
本郷温泉は1927(大正6)年から1928(昭和3)年にかけて村営のラヂウム温泉が開業し、一帯は温泉街として賑わった。
1930(昭和5)年、知識人として知られた表田幸一郎が薬師如来の夢を見たことをきっかけに、病人救済のため本郷ラヂウム温泉を復興しようとしたのが、大谷荘の始まりである。
しかし1970年代以降、観光の多様化とともに衰退し、旅館は廃業。
その後、学生寮として一時利用されるも、ほどなくして使われなくなり、さらに某キリスト系新興宗教団体の活動拠点にも転用された。
2010(平成22)年頃には木造二階建ての建物は朽ち果て、内部にはエレクトーンが放置されるなど、廃墟と化していた。
現存しており、崩れ落ちた天井や床から雨が直接降り注ぎ、まるで泣き声のような音を立てていたという。
大谷荘の心霊現象
大谷荘の心霊現象は、
- 位牌や遺影が残された経営者家族の部屋で、人の息づかいがする
- 建物内で不可解なラップ音が頻繁に響く
- 誰もいない廊下や階段に正体不明の霊影が現れる
- 聖書のメモや礼拝の原稿らしき紙が散乱し、何者かの視線を感じる
である。以下、これらの怪異について記述する。
まず恐ろしいのは、経営者家族が暮らしていたとされる部屋に、遺影や位牌、さらには預金通帳や財布までが残されている点である。
夜逃げ同然で去ったとしても、金銭関係の品は必ず持ち出すはずである。
それが残されているということは、家族に何か凄惨な出来事が起き、そのまま家を離れざるを得なかったのではないかと囁かれている。
この部屋では特に夜半、人の息づかいがすぐ耳元で聞こえるという証言がある。
薄暗い部屋の隅から、こちらを見つめる視線を感じ、恐る恐る振り返ってもそこには誰もいない。
ただ、冷たい空気だけが頬を撫でて去っていく。
また館内では、原因不明のラップ音が壁や天井から突発的に響く。
木造建築ゆえの軋みとは違う、鋭く乾いた音が規則性なく鳴り響き、誰もいない廊下を歩いていると、後ろから足音が追いかけてくるような錯覚に陥る。
宗教団体が集会に使っていた名残として、聖書の一節を殴り書きした紙や礼拝用と思しき原稿が散乱しており、それを見つけた者は例外なく「どこからか視線を感じる」と言う。
無数の亡霊が、その場に居合わせた者を囲んで覗き込んでいるのではないか――そう思わせるほどの重苦しさに襲われるのだ。
大谷荘の心霊体験談
ある探索者の話によれば、深夜に友人と共にこの廃墟へ入り、経営者家族の部屋に足を踏み入れたとたん、誰かが肩を掴んだような感覚に陥ったという。
驚いて振り返るもそこには誰もおらず、ただ部屋の奥に置かれた位牌と遺影だけが、ろうそくのような弱々しい光に照らされていた。
さらにその後、廊下を歩くうちに突然耳元で「かえれ」という低い声が響き、恐怖のあまり一目散に外へ飛び出したそうだ。
大谷荘の心霊考察
大谷荘の心霊現象は、単なる廃墟の怖さにとどまらず、この地に刻まれた人々の念が濃厚に残留しているがゆえのものと考えられる。
経営の破綻、家族間での不幸、さらには宗教団体が行っていた儀式の名残が、複雑に絡み合い、訪れる者へ怪異という形で現れているのではないだろうか。
今なおこの場所は朽ち果てながらも人々の恐怖を惹きつけてやまず、無数の声なき声が、誰かが来るのを待ち構えているのかもしれない。
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