愛媛県西予市と宇和島市を結ぶ峠に存在する歯長隧道は、四国遍路道と重なる歴史ある道である。しかし、この場所では遍路中に命を落とした者の霊が今も彷徨うと噂され、夜な夜な不気味な現象が語られている。今回は、歯長隧道にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
歯長隧道とは?

歯長隧道は、昭和45年(1970)に県道31号・宇和三間線の一部として開通した延長422.6mのトンネルである。
幅員は5.5m、高さ4.5mと決して大きな規模ではなく、現在は松山自動車道の歯長トンネルが直下に開通したことで交通量は減少したが、旧来から峠越えの重要な路線として利用されてきた。
この道は、四国八十八箇所の札所を巡る遍路道にも接しており、かつては徒歩で峠を越えるお遍路が頻繁に行き交った。
しかし、道幅が狭いにもかかわらず大型車やトラックが飛ばす危険な道であり、実際に事故で命を落とした遍路も少なくないという。
そのため、この隧道は単なる交通路ではなく、命を奪われた者たちの怨念が渦巻く“霊の通り道”として語られるようになったのである。
歯長隧道の心霊現象
歯長隧道の心霊現象は、
- 深夜、峠道を彷徨うお遍路姿の霊が目撃される
- トンネル内でエンジンが突然止まる
- クラクションを3回鳴らすと怪異が起きる
- 人影が消えるようにトンネル奥へ吸い込まれる
である。以下、これらの怪異について記述する。
最も有名なのは「お遍路の霊」である。
雨の夜や霧の深い晩に、白装束をまとった人影がふらりと道端を歩いているのが見えるという。
だが、近づけば必ず消え去り、行き場のない谷へと足を踏み外すように姿を失う。
地元では、交通事故で亡くなった遍路の魂が今も峠を越え続けているのではないかと恐れられている。
また、肝試しの定番として「トンネルで車を停め、クラクションを3回鳴らす」という行為が知られている。
実際にそれを試みた者の車は、エンジンが本当にかからなくなり、冷たい湿気と共に何者かの気配に包まれたという。
やっと再始動したとき、後部座席に“知らぬ誰かの手形”がびっしりと付いていたという証言もある。
さらに、トンネルの奥では人影が吸い込まれるように闇へと消えていくのを見た者もいる。
まるで隧道そのものが冥界へ通じる口であるかのように。
歯長隧道の心霊体験談
ある若者たちは、雨の夜に歯長隧道へ肝試しに訪れた。
定番の「エンジン停止とクラクション」を試したところ、車内のライトがふっと消え、再点灯した時には後部座席に水滴で濡れた足跡が残されていたという。
慌てて外に出た彼らが耳にしたのは、誰もいないはずのトンネル内に響く下駄の音であった。
別の体験では、遍路姿の老女が手を合わせて立っていたため車を停めたが、その瞬間、老女はかき消えるように消失した。
後には濡れた白布だけが残されており、恐怖に震えた体験者は二度とこの道を通らないと語っている。
歯長隧道の心霊考察
歯長隧道に纏わる霊の噂は、過去に実際に多くの遍路が事故死している事実に由来していると考えられる。
峠道の狭さと車の速度が生み出す危険性が、多くの命を奪った。
結果として、この隧道は「未練を抱えた霊が留まり続ける場所」と化したのである。
また、クラクション3回で起きる怪異は、単なる都市伝説ではなく「霊を呼び覚ます儀式」として根付いたものだろう。
遍路の霊は未だに成仏できず、呼び出されることでその存在を主張しているのかもしれない。
歯長隧道は、単なる旧道のトンネルではなく、命を落とした者の魂が集う“峠の地縛霊場”であると考えるのが自然である。
今なお現れる霊の数々は、隧道を通る者に「ここは死者の道である」と警告を与えているのである。
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