広島県廿日市市にひっそりと佇む渓谷・万古渓。観光地として知られる一方で、古くから数々の怪異が語られてきたこの地には、老爺の霊や自殺者の影、さらには車内への霊の侵入など、不可解な現象が絶えない。今回は、万古渓にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
万古渓とは?

万古渓(別称:まごけい)は、広島県廿日市市を流れる大虫川に形成された渓谷である。
国道295号線の佐伯から吉和へ抜ける道沿いに降り口があり、そこからは全長およそ700メートルの渓谷が続く。
巨岩・奇岩が林立し、渓谷を流れる川は複雑に蛇行しながらいくつもの滝を形づくっている。
中でも「孫淵(まごぶち)」と呼ばれる甌穴には、翡翠のごとき水が澱んでおり、吸い込まれるような不気味な美しさを放つ。
また、落差26メートルを誇る「ふぶきの滝」は、轟音と共に落下する水流があたかも亡霊の叫び声のように響き渡り、見る者の背筋を冷たく撫でる。
滝の傍には高さ100メートルの絶壁がそそり立ち、訪れた人間を圧迫するように覆いかぶさる。
ツガやコナラ、コウヤミズキなどが生い茂る深い森は、陽光をわずかに遮り、昼間でさえ薄暗い場所が多い。
夏のハイキングや森林浴には適した自然環境保全地域ではあるが、その人影まばらな静寂は、何か得体の知れぬものが潜むのではないかと疑念を抱かせる不気味さを孕んでいる。
万古渓の心霊現象
万古渓の心霊現象は、
- 老爺の霊が彷徨う
- 自殺者の霊が崖際に佇む
- 車で訪れると霊が車内へ入り込む
- 同乗者が霊に憑依され、身体の自由を奪われる
である。以下、これらの怪異について記述する。
老爺の霊が彷徨う
渓谷内の遊歩道を歩いていると、時折、杖をついた老人の姿が遠くに見えるという。
呼びかけても振り向くことはなく、ただ黙々と歩き去る。
だが、その後を追って行っても、必ずその姿は忽然と消えており、森の奥からは得体の知れぬ嗚咽のような声だけが微かに聞こえるのだという。
自殺者の霊が崖際に佇む
渓谷を見下ろす崖の縁には、夜になると虚空を見つめて立ち尽くす影が現れる。
地元では、それはこの地で命を絶った者たちの残留思念だと言われている。
じっと見つめ返していると、闇の中から不意にこちらへ手招きをするような動きが見えたと証言する者もいる。
車で訪れると霊が車内へ入り込む
車で肝試しに訪れた若者たちの間には、車内に突然寒気が満ち、見えぬ何かが同乗してくるという話が多い。
窓ガラスの曇りに手形が浮かび上がる、後部座席から低いうめき声が聞こえるなど、数々の証言が存在する。
同乗者が霊に憑依され、身体の自由を奪われる
さらに恐ろしいのは、霊が車内の人間に憑依し、その身体を操ろうとする現象である。
ある女性は霊に憑かれた際、突然左半身が痺れ、数分間まったく動かなくなったという。
まるで霊がその肉体を奪おうと試みたかのような恐怖の体験であった。
万古渓の心霊体験談
今から十数年前、深夜の万古渓へ車で肝試しに向かった四人組がいた。
メンバーは霊感の強い男二人と、その友人兄妹。
山奥へ向かう道すがら、霊感のある二人は不穏な気配を強く感じ取っていた。
やがて万古渓に差し掛かると、その気配は確信へと変わり、彼らは即座にその場から逃げ出すことを決めた。
しかし、逃げ出した瞬間、何かが車内へ侵入した。
アクセルを踏み抜き猛スピードで谷を離れようとする運転手、無言で霊に対抗する同乗者。その異様な緊張に呆然とする兄妹。
しばらく走り、やっと霊域を抜けたかと思われた頃、後部座席に座っていた妹が青ざめた顔で口を開いた。
「ねえ……体の左側が痺れて、動かないんだけど」
車内は一瞬静まり返り、次の瞬間、全員が恐怖に駆られて声もなく震えた。
幸い、彼女の痺れは三十分ほどで消えたという。しかし後日、そのとき霊感のある同乗者が半ば冗談めかして口にした。
「あのとき俺が除霊っぽいことをしたから、隣にいたお前の妹に代わりに行っちまったんだろうな」
ぞっとする話である。
万古渓の心霊考察
万古渓には、人の自殺や交通事故死といった生々しい死の記憶が多く刻まれている。
深い谷と水音に囲まれた閉鎖的な空間は、残留思念を閉じ込めるにはあまりに適しており、それが訪れる人間に不気味な影響を与えているのではないか。
老爺の霊、自殺者の影、車内への侵入、憑依現象——どれもが渓谷の静寂と冷気により、一層現実味を増して感じられる。
自然の美しさの裏に潜む暗い歴史と人々の恐怖心が、なおもこの地に怪異を呼び寄せているのかもしれない。
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