愛媛県愛南町にある家平トンネルは、開通から半世紀以上が経つ現在も、不気味な噂が絶えない場所である。今回は、家平トンネルにまつわるウワサの心霊話を紹介する。
家平トンネルとは?

家平(いえひら)トンネルは、愛南町の由良半島基部に位置し、家串と平碆(ひらばえ)を結ぶ交通の要所である。
開通前、この地域は標高70~90メートルもの急峻な地形に阻まれており、「ウネの松」と呼ばれる急坂を越えなければならなかった。
そのため住民は強くトンネル開削を要望し、昭和27年(1952年)に工事が始まった。
昭和31年(1956年)に開通し、延長192メートル、昭和38年(1963年)3月に竣工を迎えた。
開通当初は電灯もなく、出口から差し込むわずかな光だけを頼りに、人々は竹の棒を手に闇を探るように歩いたと伝えられている。
工事中には発破による被害で家屋の瓦が割れるなど、危険と隣り合わせの状況であった。
現在も地域の交通を支えるトンネルであるが、その内部には不気味な噂が絶えない。
家平トンネルの心霊現象
家平トンネルの心霊現象は、
- 暗い顔をした人影が現れ、特にタクシーを止めるが、トンネルを出ると忽然と姿を消す
- 武者の霊が現れるといわれる
- 何十年も前に起きた女性のひき逃げ事件の霊が彷徨う
- 壁に血のようなシミが残っていたと語られる
である。以下、これらの怪異について記述する。
まずもっとも有名なのが、タクシーを狙うかのように現れる「人影」である。
表情は暗く、目を合わせることができないほど不気味な顔をしており、タクシー運転手が停車すると、乗り込むこともなくその姿はトンネルを出ると同時に消え失せる。
まるで“出口に近づいた者はこの世へ戻れない”とでも告げているかのようである。
次に語られるのが、鎧兜に身を包んだ「武者の霊」である。
由良半島は古来より海防の要衝であり、戦の犠牲者が多く出た地でもある。
その無念がいまなお地底の闇に染みついているのかもしれない。
さらに恐ろしいのが、何十年も前に発生したひき逃げ事件である。
女性がトンネル内で撥ねられ、犯人は捕まらぬまま時効を迎えた。
事件後、血痕はしばらく壁にこびりつき、人々はそこを通るたびに薄暗い赤を目にしたという。
消えたはずの血の跡が、夜にだけ浮かび上がるという証言も残っている。
家平トンネルの心霊体験談
ある運転手は、深夜にトンネルを抜けようとした際、前方に手を挙げる人影を見た。
反射的に停車したが、ドアを開けても誰もいない。
気味悪さを覚えつつ車を走らせ出口に差し掛かると、バックミラー越しに“同じ人影”が後部座席に座っていたという。
驚き振り返った瞬間、そこには何もいなかった。
また別の証言では、通行中に武者の姿を見た者がいる。
刀を下げた甲冑姿の影が通路を横切り、振り向いた瞬間に霧のように消えたと語られる。
家平トンネルの心霊考察
家平トンネルに現れるとされる霊は、歴史と事故の双方が絡み合った複雑な因縁を物語っている。
武者の霊は過去の戦の犠牲者の怨念を映し出し、タクシーを止める人影は未解決事件の犠牲者、あるいは供養されぬ魂の化身とも考えられる。
血の跡が壁に染みついていたという逸話は、単なる噂に留まらず、土地に刻まれた悲劇の記憶そのものである。
トンネルの闇は、光の届かぬ場所に人々の恐怖と無念を閉じ込め、そのまま形を変えて出現しているのであろう。
家平トンネルは、ただの交通の要所ではなく、過去の怨念が渦巻く「抜けられぬ闇」となっているのかもしれない。
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