四国八十八箇所霊場のひとつである弥谷寺には、死霊を背負い降ろすという独特の風習や、決して振り返ってはならない怪異の伝承が残されている。今回は、弥谷寺にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
弥谷寺とは?

弥谷寺(いやだにじ)は、香川県三豊市に位置する弥谷山(標高382m)の中腹に建つ古刹である。
創建は天平勝宝年間(749~757年)、聖武天皇の勅願により行基菩薩が開いたと伝えられている。
その後、大同2年(807)、唐から帰国した弘法大師が再びこの山に籠もり、修行中に天空より五本の剣が降る霊験を得たことから「剣五山」と改め、のちに弥谷寺と号した。第71番札所として四国霊場の重要な位置を占めている。
弥谷寺は古来より「死霊を降ろす寺」として知られ、死者を背負う仕草をして参拝し、境内で霊を下ろして決して振り返らず帰る「弥谷参り」という風習が存在した。
そのため、弥谷山そのものが死霊の集う山として恐れられてきたのである。
弥谷寺の心霊現象
弥谷寺の心霊現象は、
- 境内や参道で背中や肩を叩かれる
- 叩かれた際、振り返ると祟りがあるとされる
- 夜間参拝で不可解なラップ音が響く
- 石仏や磨崖仏の周囲で強烈な霊気を感じる
である。以下、これらの怪異について記述する。
弥谷寺の心霊的雰囲気は、まず山門をくぐった瞬間から始まる。
長く続く石段の両脇には濃密な木立が影を落とし、その間に点々と並ぶ石仏や弘法大師像が参拝者を睨みつけるかのように立っている。
仁王門を抜ければ無数の石積みが並ぶ實の河原が広がり、小さな石に込められた供養の念が淀んでいる。
さらに石段を上り詰めると現れる「百八階段」。これは煩悩を浄化するための石段とされるが、参拝者の多くがここで強い視線や冷気を感じるという。
大師堂や本堂の周辺には岩窟が点在し、とりわけ「獅子の岩屋」からは圧倒的な霊圧が漂うと恐れられている。
夜間、参拝すれば誰かに背中を叩かれる、あるいは藪の中から「バシッ」「ビシッ」と枝を折るような音が立て続けに響くという証言もある。
この音はラップ音の一種であり、死者を降ろす儀式が今なお山中で繰り返されている証左ともいわれている。
弥谷寺の心霊体験談
ある芸能人が番組の撮影で夜間の弥谷寺を訪れた際、参道を歩いていると突然背後から肩を叩かれる感覚を覚えた。
同行者の仕業と思い振り返ったその瞬間、藪の中から乾いた破裂音が三度立て続けに響いたという。
恐怖に駆られた彼はその場から走り去ったが、後にこの現象は「死霊を振り返ってしまったための警告」であったと地元の人々に語られた。
振り返ってはならないという伝承が、単なる戒めではなく実際の体験として裏付けられているのである。
弥谷寺の心霊考察
弥谷寺は単なる山寺ではなく、古来より死霊を受け入れる「境界の地」であった。死者の魂を背負い参拝し、境内で降ろして帰るという風習は、霊を鎮めるための呪的行為である。
同時に、この儀式を通じて生者と死者の境を守ってきたのだろう。
背中を叩かれる怪異は、未だ成仏できぬ霊が生者に取り憑こうとする兆候と考えられる。
もしもその時、振り返ってしまえば、死者と正面から向き合い、魂を連れて行かれるのかもしれない。
弥谷寺が今も「死霊の宿る山」と呼ばれるのは、単なる伝説ではなく、この地が人々の畏怖と供養を集め続ける特異な霊場だからである。
夜の弥谷寺に足を踏み入れることは、死者の世界へと一歩近づくことを意味するのかもしれない。
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