広島湾に浮かぶ小島・金輪島には、戦争と原爆の惨禍が深く刻まれている。かつて被爆者が運び込まれ命を落とし、今なお兵士や無念の死を遂げた人々の霊が彷徨うと噂されるこの島には、数多の恐ろしい心霊現象が語り継がれている。今回は、金輪島にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
金輪島とは?

金輪島(かなわじま)は広島湾に浮かぶ芸予諸島のひとつであり、広島港の東およそ1キロメートルに位置する。
18世紀半ばに商人がハゼノキやウルシノキを植樹して蝋を生産したが、漁師から魚族の襲来を妨げるとして激しく抗議され撤退を余儀なくされた。
以後、陸軍運輸部金輪島工場が設置され、太平洋戦争の末期には野戦船舶本廠の一部として多くの軍需活動が行われた軍事の島である。
昭和20年、広島に原爆が投下されると、被爆した多くの人々がこの島へ運ばれた。
しかし皮膚がずるりと剥がれ落ち、血にまみれた人々は「水をください」と弱々しく訴えながら次々に命を落としていった。
こうした死者を慰霊するため、島には原爆慰霊碑が建てられている。
戦後は軍需工場が民間に払い下げられ、現在も造船業が島の基幹産業である。
島の人口はわずか66人(2012年時点)と非常に少なく、荒れた雑木林や寂れた海岸線がかつての悲劇を物語る。
金輪島の心霊現象
金輪島の心霊現象は、
- 男性の霊が現れる
- 原爆で亡くなった人々の霊が徘徊する
- 軍服姿の兵士の霊が夜中に現れる
- 原爆慰霊碑付近で聞こえる「水をください」という呻き声
である。以下、これらの怪異について記述する。
男性の霊が現れる
金輪島では夜になると、暗がりの中からずぶ濡れの男性の霊が姿を現すことがあるという。
港の桟橋や島の北岸に現れ、ぼんやりと佇むその男は声をかけると静かにこちらへ振り返る。
血の気の失せたその顔には目だけがぎょろりと光り、誰とも知れぬ言葉を呟くのだ。
原爆で亡くなった人々の霊
かつて約500人の被爆者が運び込まれたこの島では、夜毎に血まみれの亡者が彷徨うと噂されている。
皮膚が剥がれ落ち、骨ばかりになった腕を差し伸べながら「水をください」とか細い声で訴える霊が、トンネルを抜けた慰霊碑の周囲で度々目撃される。
軍服姿の兵士の霊
終戦間際まで軍需の島として使われた金輪島では、今もなお軍服を着た兵士の霊が現れるという。
深夜、人気のない造船所の裏手や山道で足音が続き、振り返ると軍帽をかぶった兵士が立ってこちらを睨んでいたという話がある。
「水をください」という声
とりわけ有名なのは、夜更けに慰霊碑の前を通りかかると、誰もいないはずなのに「水をください」と苦しそうに訴える声が聞こえてくる現象である。
声のする方へ近づいてもそこには誰もおらず、代わりに焦げた肉のような臭いが鼻を突くという。
金輪島の心霊体験談
ある若い男性が友人たちと夜釣りに訪れ、金輪島へ立ち寄った際の話である。
釣りを終え船に戻ろうとしたところ、港の桟橋の先に誰かが立ってこちらを見ていた。
暗くて顔は見えなかったが、異様に細い体と濡れたような衣服が印象に残ったという。
友人が冗談で「おーい!」と声をかけた瞬間、その人影はすっと海へ飛び込んだ。
慌てて駆け寄ると、海面には何も浮かんでおらず、ただ冷たい水面が月を揺らしているだけであったという。
その夜から数日、彼らは耳鳴りに悩まされ、眠りに落ちる寸前に必ず「水をください」という声で目を覚ましたそうだ。
金輪島の心霊考察
金輪島の心霊現象は、その多くが戦争と原爆の惨禍に起因している。
被爆し皮膚が剥がれ血を流しながら水を求めて死んでいった多くの人々。
その怨念が土地に深く染み込み、今なお同じ苦しみを繰り返すかのように島を彷徨っているのではないだろうか。
また、軍需の島として栄えた歴史が、未だ成仏できない兵士の霊をこの地に縛り付けているのかもしれない。
夜の金輪島は、静寂の中に苦悶の声と死者の影が確かに息づいている場所なのである。
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