大分県大分市と臼杵市の境に位置する「九六位峠(くろくいとうげ)」には、古くから不可解な霊の目撃談や凄惨な事件が語り継がれている。今回は、九六位峠にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
九六位峠とは?

九六位峠とは、大分県大分市と臼杵市を結ぶ県道21号線に位置する全長約6kmの峠道である。
美しい山間部に位置するが、どこか陰鬱な雰囲気を漂わせる場所でもある。
道路としての整備は比較的良好であり、序盤は快適な2車線のカーブが続く。
しかし峠の中盤からはセンターラインが消え、急カーブや路面の荒れが目立ち始める。
特に大分市側の終盤には道幅が極端に狭くなり、走行には注意が必要である。
九六位峠には目立った観光地や名所は存在しないものの、ドライバーにとっては都市部のストレスから解放されるルートのひとつとして知られている。
しかし、その裏には、古より伝わる哀しい伝説や、近年の凄惨な事件が静かに横たわっている。
九六位峠の心霊現象
九六位峠の心霊現象は、
- 女性の霊が目撃される
- 深夜、誰もいないはずのトンネルから足音が聞こえる
- 後部座席に女が乗っていたと訴えるドライバーの証言
- 無言で睨みつけてくる白い服の女性の姿
である。以下、これらの怪異について記述する。
まず最も有名なものは、「女性の霊」である。
九六位峠や、その近くにある九六位トンネルでは、深夜になると白い服を着た長髪の女性が道端に佇んでいるのを見たという報告が後を絶たない。
その女は声を発することなく、ただ無表情に通り過ぎる車を見つめてくるという。
また、トンネル付近を通過中、「明らかに誰かが後ろをついてきているような足音」が聞こえるとの証言も複数ある。
だが振り返ってもそこには誰もおらず、不自然なまでの静けさだけが耳に残る。
ドライバーの中には、誰も乗せていないはずの後部座席に「白い影」が一瞬現れ、その直後、ミラー越しに女と目が合ったという者も存在する。
急ブレーキをかけて確認したが、座席には誰もいなかったという。
このような怪異の原因として囁かれているのが、2001年に実際にこの場所で起きた殺人事件である。
事件の加害者は建設機械会社の経営者であり、不倫関係にあった元事務員の女性と共謀し、手形詐欺を働いていた。
しかし詐欺が露見することを恐れた女性は「自分を殺して保険金で弁済してほしい」と願い出た。
加害者はその願いに応じる形で、2001年7月、九六位峠に女性を連れて行き、車内で口と鼻をガムテープで塞ぎ、窒息させたのだ。
この事件以来、九六位峠では「無念の女性の霊が彷徨っているのではないか」との噂が絶えない。
さらに時をさかのぼると、この地にはもうひとつの悲劇が伝わっている。
南北朝時代、大友氏鑑の娘が敵に捕らえられる前に、乳母の手によって殺され、楠木の下に葬られたという伝説である。
そしてその乳母は、自らの命を九六位峠で絶ったとされる。
無念の死、叶わぬ想い、時代を超えて積み重なる怨念――九六位峠は、そうした記憶の吹き溜まりなのである。
九六位峠の心霊体験談
あるドライバーは、真夜中に九六位峠を走行していたところ、トンネルの入り口に差しかかった瞬間、助手席の窓をノックされるような音を聞いたという。
もちろん、その時、車外には誰もいなかった。無視して走り続けると、今度はバックミラーに白い服を着た女性の姿が映った。
驚いて振り返ったが、そこには誰もいなかった。
その日以来、彼は峠道を通るたび、何ともいえぬ重苦しい空気を感じるようになったという。
九六位峠の心霊考察
九六位峠の怪異の中心にあるのは、やはり2001年の殺人事件である。
愛憎、詐欺、そして自ら死を願った女性の未練。それが「霊」という形で峠に残っていると考えられる。
また、歴史的背景においても、姫之宮春日社にまつわる乳母と姫の悲劇がある。命を絶つという選択をした乳母が、なぜか九六位峠で死を選んだというのは偶然ではあるまい。
そこに特別な意味があったのだとすれば、九六位峠は古来より「命が絶たれる場所」としての因縁を背負っていた可能性が高い。
霊は突然現れるのではなく、何かしらの「意味ある死」によって生まれる。
そしてその死が、他者に知られず埋もれてしまうほど、その怨念は濃く、しつこく、この世に残り続けるのだ。
九六位峠は、表面上は静かな山道にすぎない。
しかしその背後には、語られぬ声と、成仏できぬ想いが今も渦巻いているのかもしれない。
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