岩手県金ヶ崎町にひっそりと佇む「おいし観音」には、今もなお人々の心をざわつかせる数々の怪異が語り継がれているという。今回は、おいし観音にまつわるウワサの心霊話を紹介する。
おいし観音とは?

おいし観音は、岩手県胆沢郡金ヶ崎町西根にある観音像である。
地元では千貫石堤(せんがんいしてい)と呼ばれる溜池の近くにあり、その名はある一人の若い女性「おいし」に由来するとされている。
この千貫石堤は、天和二年(1682年)に着工し、元禄四年(1691年)に完成したと伝えられる。
しかし工事は困難を極め、毎年のように堤が決壊するなど、奇妙な事故が相次いだ。
これを憂いた地元の役人たちは、「おいし」という名の若い女性を釜石から買い求め、牛と共に石室に封じ生き埋めにするという、凄惨な人柱の儀を行ったのである。
その後、堤の工事は奇妙なほどに順調に進み完成したが、それと引き換えに、おいしの怨念とされる怪異がこの地に根づいてしまった。
おいし観音の心霊現象
おいし観音の心霊現象は、
- 女性の霊が現れる
- 闇夜に泣き声が響く
- 黒い人影が見える
- 関わった者に祟りが降りかかる
である。以下、これらの怪異について記述する。
おいし観音周辺では、夜になると、どこからともなく「闇いぞ、闇いぞ」と囁く声が聞こえるとされている。
それはかつて生き埋めにされた「おいし」のものではないかと噂される。
ある晩、観音像の前で祈っていた女性が、背後からすすり泣く声を聞いたと語っている。
振り向くと、草むらに濡れた髪を垂らした女性の姿が見えたという。
また、おいしと関わった工事責任者・川田勘助とその一族が次々と不可解な死を遂げたことから、「おいしの祟り」として地元に恐れられるようになった。
関係者の家系は絶家となり、今なお「おいしに関わった家は代々子孫が絶える」と囁かれている。
昭和に入ってもなお、おいしの霊は人々を苦しめ続けた。
ある時期、この地域の女性たちの間に「おいしが夢枕に立った」という証言が相次ぎ、不幸が続いた。
結婚が破談になったり、家族が難病に苦しんだという話が広まったため、再び祟りを恐れた地元住民たちは、昭和50年に供養のため「おいし観音像」を建立するに至ったのである。
おいし観音の心霊体験談
千貫石堤の近くに住む女性が体験した話がある。
ある夏の夜、観音像の前を通りかかると、突然、冷たい風が吹きつけたという。
風の中に、はっきりと女性のすすり泣く声が混じっていた。誰もいないはずの茂みの中に、人影のようなものがちらつき、心臓が止まりそうなほどの恐怖に襲われたと語っている。
後日、この女性の家では飼い犬が突然狂ったように吠え続け、数日後に原因不明の死を迎えた。
これもまた、おいしの祟りによるものだと囁かれている。
おいし観音の心霊考察
おいし観音にまつわる数々の怪異は、単なる風聞では済まされない、強烈な怨念の痕跡であると考えられる。
おいしという若い女性は、家族に売られ、騙され、生きたまま封じられた。
その絶望と憎しみは、やがてこの地に染みつき、時を越えて人々の精神に干渉し続けているのではないか。
工事の完了と引き換えに命を奪われたおいし。
その霊は、いまだに供養を求めて彷徨っているのかもしれない。
観音像の微笑みの奥には、決して癒されることのない深い悲しみと怒りが宿っているのである。
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